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亡霊に取り憑かれた王女  作者: 曉月 栞


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リリック領主

 「ヘパーリンと戦争!?」


 カイデン・リリックは、思わず椅子から立ち上がった。


 「リリック領主もご存じでない?やはり、急に起きた話なのか。ふう……ご馳走様。」


 リアは出された軽食を平らげ、ふうっと一息ついた。


 「寝耳に水です!確かに……ヘパーリンと隣接する地域に急に兵士が現れて、仕掛けられたという噂は何度か聞きました。しかし、その度にキューダン基地が出て制圧してくれたと。だからまさか、軍の本拠地であるキューダンを襲うとは……。」


 「そうだったのか……。ヘパーリンは一体何がしたいんだろうな?代替わりする前は、こんなことは一度もなかったのに。ジェナット……だっけ?新しい国王は。」


 「そうです!そんな名前です!確かに何がしたいんでしょうね?ここいらを襲っても、みかんしかないですよ?うちは馬もありますが。」


 「凄く美味しいけど。でもなあ、ヘパーリンだって、みかんは沢山採れるんだろう?」


 「だと思いますよ。向こうの山だって豊富に生ってますし、独自のブランドも色々あります。我が国側の希少価値の高いみかんが欲しいのならば、戦争を起こすよりも、農家と交渉して高値で苗を買い取った方が安上がりだと思うのですが。」


 「うーん。単純に、領土の拡大が狙いか。」


 「私には理解出来ませんね。猫が獅子に挑むようなものですよ?ジェナット国王は何を考えているのでしょう。」


 「至極もっともな意見だ。領土を拡大させたいか、裏の裏をかいて更なる狙いがあるか。恐らく、前者だと思うが。」


 「更なる狙い?」


 「例えば、私をセインティアから遠ざけたい。しかしこれはおかしい。何故なら私は、今までペイジにいたのだから。私を打ちたい、もしくは私のいない間にセインティアを狙いたい。それならば敢えて、ヘパーリンの国境近くまで私をおびき寄せる必要がない。」


 「なるほど。」


 「多分、アホの類だな。中央からは一軍が出ている。ヘパーリンはそんな大事になるとは予想していないだろう。地元の小競り合いで何とか領土を手に入れられると。こてんぱんに叩きのめしてくれということは、そういうことか。」


 「中央から一軍が!?全く気づきませんでした。」


 「こっちの西側から行くと、ヘパーリンに気付かれる恐れがあるからな。中央の街道沿いから行ったのだろう。開けてるから道中補給も出来るし。」


 「そうだったのですか。」


 「みかんが目的でないとすると……奴等の狙いはキューダンか。」


 「キューダン駐屯地!?」


 「そう見ていいだろう。うちを狙う足掛かりにしたい。どこまで拡げたいのか分からないが。」


 「無謀ですねえ……。」


 「無謀を通り越して無茶苦茶だ。首都から離れているから何とかなると思ったんだろ。だけど、うちはそんなに甘くない。」


 「新興国っていうのはある意味怖いですね。国の繁栄を考えるならば、もっと内政に力を入れるべきでしょうに。もしくは穏やかな外交を。」


 「全く以て同感だ。そう言えば、キューダンの領主を知っているか?私は面識が無いのだが、旧知ならどんな人柄なのか教えて欲しい。」


 「あ……!!」


 「どうした?」


 「いえ、ちょっと引っ掛かることがあって。」


 「引っ掛かる?」


 「ええ。……キューダン領主は変わり者です。随分前ですが、近隣の領主間での親睦会があって、一度だけ会ったことがあります。」


 「どんな印象だった?」


 「偏屈ですね。この辺では領主同士の会合なんて滅多にありませんから、皆和やかに振舞っていました。しかし、彼だけは頑固者のイメージがあります。」


 「例えば?」


 「例えば……元は、ヘパーリン側の土地も自分のところの領地だったのに、多くの土地が向こうに行ってしまった……とか。」


 「…………。」


 「…………。」


 「…………。何だ、何だ?……キューダンの領主は、誰か中央との繋がりがあるか?」


 「恐らく無い、と思います。あったとしても非常に縁が薄いのではないでしょうか。昔からの地主だったと思いますが。」


 「昔この辺で、ヘパーリンとの大きな戦があったのか?申し訳ないが私は把握していない。」


 「相当大昔の話だと思いますよ。国境なんて無く、領主同士の争いだったのでは?ヘパーリンだってまだ国家ではなく、村みたいな時代の頃のことなんじゃないでしょうか?」


 「むう……。」


 「……考えてみれば、キューダン領主には不可解な行動があります。」


 「何?」


 「みかんの販売の為に、頻繁にヘパーリンに行っているという噂があります。」


 「何の為に?ヘパーリンだってみかんは売るほどあるんだろう?」


 「……おかしな話ですね。」


 「おかしいを通り越して怪しいよ。」


 リアはドサッと椅子に凭れて、脱力した。


 「キューダンの領主……何て名だっけ?」


 「ドマスです、ドマス・キューダン。」


 「ドマス・キューダンは、ヘパーリンに何らかの媚薬を嗅がされて、寝返っていると見た方がいい。」


 「そうですね。応援を出しましょうか?」


 「頼んでいいのか?」


 「当り前です!当家は先祖代々、王家に忠誠を誓っております!地理的には離れておりますが、有事の際にはお役に立ちたいと常に思っております!」


 「有難い……。どれ位出せる?」


 「当家の超精鋭で十五。搔き集めて四十。明日の朝までお待ち頂けるのならば、声を掛け捲って五百は集められます。」


 「それは凄い。」


 リアは椅子に凭れ掛かって、日の暮れ始めた空を見た。


 「今は数人でいい。精鋭五名は直ぐに立てるか?」


 「はい。」


 「五名を連れて、キューダンへ発つ。カイデン・リリック領主、手数だが明日の朝までに、戦える者五百をここへ待機させておいて欲しい。」


 「御意。」


 「状況が分かり次第、或いは変わり次第、借り受けた精鋭で早馬を放つ。」


 「了解しました。指示通りに采配致しましょう。」


 「ありがとう。」


 「お礼を言われる筋合いはございません。我々の繁栄は王家あってのものですから。それよりリア様、準備に少し時間を下さい。ほんの僅かな時間ですが、出立されるまでどうぞお休み下さい。」


 リリックの領主は立ち上がり、周囲にいる者達にてきぱきと指示を与え始めた。








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