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亡霊に取り憑かれた王女  作者: 曉月 栞


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16/85

ダンスして下さい

 「激励していくつもりだったんだけどなあ!」


 牧場の柵に凭れて、リアは嘆息した。


 「こんな辺境の地で緊張状態が続いたら、みんな息が詰まっていることだろう。二、三日、稽古をつけて、夜はバーベキューでもして、士気を盛り上げようと思ってたのに。」


 「正直言って、兵士達はかなり期待していました。リア様が見られるって。しかし、そんなことを言っている場合ではありません。彼等も身が引き締まる思いでしょう。ここから、王女が戦地に赴くと知って。」


 「そうか。」


 リアは牧場に向かって、ピィーッと指笛を吹いた。途端に、一等の栗毛の馬がリアに向かって駆け寄って来た。


 「ジュダ!」


 リアは馬の首筋に手を回し、軽く叩いた。


 「お前は本当にいい子だねえ!かわいいなあ!かわいかっこいいなあ!」


 リアはジュダの首筋に顔を埋めて、そっと囁いた。


 「ジュダ、戦なんだ。」


 「…………。」


 「先に行っててくれ。私も後から必ず行く。リリックだ。リリックのセプ爺のところで待っててくれ。私が行くまでゆっくり休んでろよ。」


 意を介したように、馬はリアに背を向けた。リアがポンッとともを叩くと、脇目も振らずに草原を走り去って行った。


 「リリック?ですか?ヘパーリンとの国境沿いだと、キューダンになるのでは?うちの駐屯地もありますし。」


 ケールは遠く去って行くジュダを見送りながら、首を傾げた。


 「戦地がどういう状況だか分からないから、直では行かせられないよ。手前のリリック領主とは懇意なんだ。中でも厩番のセプ爺は素晴らしい。戦の前にゆっくり休んで貰おうかと。」


 「そうでしたか。」


 「という訳でケール、馬を一頭貸してくれないか。全力で走らせるから申し訳ないが。途中途中の要塞や領主のところで、乗り換えて行く。」


 「分かりました。」


 ケールが指笛を吹くと、牧場に散った馬達が軽やかに駆け寄って来た。



     ★★★



 「では、行くか。」


 リアは馬具を装備した馬を見上げた。


 「ケール、ジェマーソンへの報告、よろしくな。その件も含めて、中央から誰か派遣されてくるだろう。お前は何とかペイジを持ちこたえてくれ。ヘパーリンと始まったのに、こっちも勃発、ということになったらかなりしんどい。」


 「はい。」


 「そうだ、ケール。何か望み……というか、お願いみたいなものはないか?」


 「お願い?」


 「いずれ父上から何らかの報奨があるだろうが、私からも何か。」


 「何でですか?」


 「何でですかって、パリアグラスとハジャの件に決まってるじゃないか!」


 「ああ!!」


 「ああ!!って欲のない奴だな。」


 「だって、豊作不作、豊漁不漁の時期をまとめただけですよ?」


 「お前が調べなければ、周期があるなんて誰にも分からなかったんだよ!お前の功績はでかいんだ!」


 「そういうもんですかね。望みって言われても……では、リア様。」


 「何だ?」


 「手を出して下さい。」


 「手?」


 リアが右手を差し出すと、ケールはそっとそれを両手で包んだ。


 「無事にお戻り下さい。」


 「勿論。ん……?まさか、それが望みとか言うんじゃなだろうな?」


 「いえ、その通りです。」


 「冗談じゃない!無事に戻るに決まってるだろう!辛気臭いこと言うな!」


 「だけど…………では、リア様。」


 「何だ!」


 「ダンスして下さい。」


 「だんす……?」


 「そうです、ダンスです。ヘパーリンが収まって、ランウェルも無事になって、私が中央に呼ばれることでもあったら、こうやって一緒に踊って下さい。」


 ケールはリアの手を、軽く掲げた。


 「む…………悪くないな。ヘパーリンもランウェルも何とかなって、お前が中央に来ることがあったら、お前と一番に踊ろう。その時は男役はやらないで、飛び切りのパリアドレスを着てやる。だ、か、ら……。」


 リアはケールの顔を覗き込んだ。


 「そんなに心配すんな!!」


 「痛いぃっ!!」


 リアに思い切り握られた手を、ケールはさすった。


 「じゃ、後のことよろしくな!!」


 リアは馬に飛び乗ると、鮮やかな髪を翻し、去って行った。


 



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