急使
「これは、これは、アリアンルーシュキャロル王女様!おはようございます!本日もこの爽やかな青空のように、お美しゅうございますね!」
使者は深々と膝を折った。
「おはよう、悪いけど挨拶は全部飛ばして。お前が急使だって?」
「左様でございます。」
「何があったんだ?」
「私は存じ上げません。」
「は?」
「内容は全てこの中に。」
使者は一通の手紙を、恭しく懐から取り出した。
「ジェマーソンからだ……。」
リアはひったくるように手紙を奪い、開封した。読み進むにつれて、彼女の表情は曇り、険しくなっていく。
「どうしました?」
ケールは心配そうにリアを伺った。
「……戦だ。」
「戦!?」
「ヘパーリンと始まったらしい。ペイジはセインティアよりも近いから、直行して欲しいと。思ったより早かったな……。」
「何ですって!?」
「中央からはゼムビストが行ったそうだ。」
「ゼムビスト大将が!?中央から一軍を割くなんて、そんなに大きな戦いなのですか!?」
「分からない。ジェマーソンはこてんぱんに叩きのめしてくれと言っているが。おい、お前。」
リアは使者に目を遣った。
「何でございましょうか、アリ――。」
「長いからリアでいい。いつ、セインティアを立った?」
「五日前でございます。」
「五日!?何故そんなに掛かった?」
「普通でございますでしょう?山越えはあるは、川越えはあるは、王女様に謁見する為の身だしなみもございますし――。」
「三日で行け。」
「は?」
「三日でセインティアに戻るんだよ!」
「ご冗談を。」
「冗談じゃない。お前、名は?」
「これは、これは!リア王女様に名を聞かれるなんて!私、生まれも育ちもセ――。」
「全部省略して。名は?」
「ブルックでございます……。」
「ブルックか。ケール、パリアグラスとハジャの事情は誰かに連絡した?」
「リア様宛てに手紙を出しました。でも、行き違ったみたいですね。」
「そうか、私宛てだと開封されないかもしれないな。すまんがジェマーソン宛てにもう一通書いてくれ。ジェマーソンが父上に進言するだろう。」
「畏まりました。」
「ブルック、お前はケールの書いた手紙をジェマーソン元帥に届けるんだ!三日以内に届いたか、後で必ず聞くからな!」
「ひいぃ!!」
「直ぐに立つ。恐らくゼムビストの方が先行しているだろう。」
リアは急いで荷物をまとめ、ケールはそれらを持ち、二人は慌ただしく書庫を後にした。ブルックが泣きそうな顔で彼等にすがる。
「ケ、ケール中佐!」
「はい?」
「て、手紙を書いて頂かないと!」
ケールは振り返り、ずずいとブルックの前に立ちはだかった。
「書きますよ、勿論。リア様のご命令ですからね。」
「では、早く……!」
「三日も猶予があるんでしょう?余裕ですよ。」
ブルックはひたすら汗を拭っている。
「あなた、この国の王女がどこへ行くか分かってます?戦場ですよ?私が見送らないで誰が見送るんですか!それが軍隊の儀式ってもんです。直ぐに戻るから、あなたはここで待っていなさい。」
「はあ……。」
ケールに気圧されて、ブルックは立ち竦んだ。
そんな儀式あったかな……と思いながら、リアは先を急いだ。




