表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡霊に取り憑かれた王女  作者: 曉月 栞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/85

死んだ場所

 ……やはり、東側ではない?


 リアは頭の中の亡霊に、そっと話しかけた。


 ……だと思う。こっちの西側の方だと思う。


 ……そうか。どの辺で死んだのか分かるか?


 ……うーん、リア、ちょっとランウェル橋を振り返ってくれる?


 ……うん。どうだ?


 ……やっぱり、もう少し北側だな。


 ……分かった。


 リアはランウェル橋を時々振り返りながら、少しずつ北へ寄った。


 「アンルーシュ様!あんまりそっちへ行かないで下さい!さっきから一体、何をしておられるんです?」


 ケールが泣きそうな顔をしてリアに訴えた。


 「いや、ま、その……宝探しみたいなもん?」


 「宝探し……ですか?」


 「んー、そんな感じ?大丈夫だって!北側には行かないように、何度も橋で確認してるだろ?」


 「そのようですが、こっちはヒヤヒヤです!」


 「ごめん、ごめん。気を付けるから。」


     ★★★


 ……ははは!!宝探しか!うまいこと言うな!


 ……お前が言うな!


 ……ごめんね、ありがとう。


 ……それより、お前の死んだ場所はどこなんだ?ひょっとして、ハルナック側なんじゃないか?


 ……どちら側でもないな。ランウェル橋がほぼ正面に見えていたから。


 ……丁度、境界上か。この辺はどうだ?


 リアはランウェル橋を振り返った。


 ……いや、もう少し橋から離れていたと思う。


 ……分かった。


 リアは西へ馬を進めた。


 ……リア、聞いていい?


 ……何だ?


 ……セイントレアとアーネスタントは行き来が出来ないんだろ?


 ……そうだよ。


 ……この草原を通れば凄く簡単じゃない?


 ……そんなこと、誰もが思ってる。


 ……じゃ、何故?


 ……がっつりうちの見張りと、アーネスタントの見張りが監視しているからさ。この辺はまだ橋が見える範囲だから大丈夫だけど、もう少し西へ行くと、いつハルナック隊が検問に来てもおかしくない。


 ……もっと西へ行けば?どっちの兵士の監視も届かないくらい遠くへ。


 ……そうすると、イアンナール国へ突き当たる。


 ……へえ。一旦イアンナール国へ入国してから北上し、東へ抜ければ?簡単にアーネスタントに行けるんじゃない?向こうにとっても。


 ……それがそうもいかないのだ。立地的には可能だ。イアンナールは南北に伸びている縦長の国で、セイントレアともアーネスタントとも接している。しかし、イアンナールは規律が厳しい国なんだ。イアンナール周辺では勿論軍が待ち構えているし、そもそも自国民が他地へ移動することを嫌う。国の随所に置かれている関所を通り抜けてアーネスタントへ渡ることは、不可能だと思うよ。


 ……なるほど。取引はあるの?


 ……国としては、ない。係ると面倒臭そうな国だから。だが、民には強要していない。商売をしたければ、国の保護なしに好きにやって貰っている。


 ……面白いな。


 ……だろ?私も興味深くて、何人か商人を呼んで話を聞いてみた。だけど、よく分からなかった。酷い扱いを受ける訳ではないらしいが、戻ってくるまでの期限が決められていて、それを破ると多額の罰金を取られるんだ。本当に目的地に直行して、すぐに帰って来るらしい。物見遊山が出来る状況ではないようだ。


 ……ふうん。謎の国だね。


 ……そう。…………この辺はどうだ?


 リアはランウェル橋を振り返った。


 …………此処だ。


 ……そうなのか!?


 ……そう、此処!!丁度この辺!!ランウェル橋からの距離もこんなもんだし、ほら、あそこにぽつんと楠が生えてるだろ?そうだ、此処だ!!


 ……そうか!何か思い出したことはないのか?愛する妻の顔とか、やり遂げたかった使命とか。


 ……な、無い!!


 ……えーい、クソ!!気分はどうだ?急にお空に還りたくなったとか?


 ……特に無い!!


 ……ふざけんな!……よし、私が祈ってやろう。彷徨える亡霊が迷わないように真剣に祈ってやるから、お前も真剣に還れ。


 ……還るってどこに?


 ……分からないけど……空とか神様のところとかおじいちゃんのところとかだよ、多分。


 ……どこだろうねえ。


 ……どこでもいいけど、私の中にいるよりは居心地が良い筈だ。


 ……リアの中も居心地がいいよ。


 ……うるさい!!つべこべ言わずに真剣に還れよ!!


 ……分かったよ。


 リアは馬から降りて草原に跪いた。


 「あの、アンルーシュ様。何をしておいでで?」


 ケールがぽかんとした顔でリアに尋ねた。リアはきっと振り返り、鋭い眼差しをケールに向ける。


 「あのさ、私は今、もの凄く真剣なのだ。ちょっと黙っててくれないか?」


 「…………。」


 只ならぬリアの気配に、ケールは押し黙った。何が何だか分からないが、自分だけ馬に乗っている訳にもいかず草叢に跪く。


     ★★★


 リアは祈った。

 嘗てない程、真剣に祈った。

 亡霊の為に祈っていた筈が、いつしかこの地に倒れた全ての兵士の為に祈っていた。


 国土を守る為――。それは致し方無いことなのだろう。

 しかしそれは、王家が殺したのだ。そしてその戦いは、今後も続いていく。この地に国土がある限り。


 長い祈りの後、リアは大地に額突き、空を見上げた。相変わらず綿菓子のような雲が、形を変えてふわりふわりと漂っていた。

 そっと頭の中に話し掛ける。


 ……亡霊。


 ………………。


 ……亡霊。…………逝ったか……。


 リアはふうっと息を付いた。その時、頭の中に声を聞いた。


 ……リア、ごめん。俺まだいるよ。


 ……!!


 ……あんまりお祈りが綺麗だから、うっとりしちゃった。


 リアはガクッと肩を落とした。


 





 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ