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食堂でちくわ天入りうどんを食べようと、いそいそと食券を買って窓口へ向かったら、ちくわ天の品切れを告げられた時の虚無感のようなもの。
ちくわ天(当日発送)は、さすがのAmazonにも食品サンプルしかなかった。
やんぬるかな。
一応実家の押し入れから、愛しのワープロ『書院』さんを引っ張り出すことも検討していた。
しかし、長き眠りを経てこの世に彼が甦り、安心してこの世に君臨し覇権を握るためにはいくつかの必要条件がある事を忘れてはいけないのだ。
本日のお品書きは以下の通りである。
1.文字を印刷するための消耗品の確保
2.文章保存のための記録媒体の確保
3.落ち着け、水沢。そもそも、アレ動くのか
以上の3点である。
1.文字を印刷するための消耗品の確保
これはおそらく簡単である。だって今はAmazonがあるから!なんせ翌日にはなんでも届けてくれるから!などと考えていた私だったのだが、高校時代からすでにプリンターのヘッド部分が損傷気味で、大学時代にはすでに文字を入力することしかできない状態だった事を思い出した。
プリンター部分がまるで緑青をふいたかのように変色してしまったのである。
それからというもの通常の文字サイズで印刷すると、必ず文字の半分がかすれたような状態になってしまい、やむを得ず『二分の一印刷』という機能を使って、文字全体を小さく印刷するという荒療治でしのいでいた。修理に出すには懐事情が厳しかったのである。
てっきりプリンターを酷使しすぎた為だと思っていたのだが、先日作家仲間の方がご自身の体験を交え丁寧に教えてくださった。
インクリボンを装着するプリンター部分に『カバーがない』ことが原因とのことである。それを伺って、おそらくだが直接空気に触れ続けることや、指などで触ってしまうことで、皮脂が部品を酸化させてしまったのではないかと推察した。
だがカバーをつけてある機種はインクリボンの消耗がないものよりも早かった、というお話であったので痛し痒しである。
ちなみにインクリボンという言葉を当たり前のように使ってしまったのだが、ヤングな方々にご理解頂けるだろうか。
形状で言うならば、テプラのカートリッジにとても似ている。テープの部分に印刷用のインクがついたリボンが巻いてあるのだ。
『ワープロ インクリボン』で検索すると、なんか黒い角張ったものが見つかる。
ワープロの印刷にはこの『インクリボン』を使用して、コピー用紙などのいわゆる普通紙に印刷するタイプと、『感熱紙』と呼ばれる用紙に分けられる。
コンビニなどでもらうレシート。あれは感熱紙の代表選手だろう(あと映画館のチケット)。
広辞苑によると、表面に特殊な溶液をつかってあり、熱が加わるとその部分が融解して、化学反応を起こすことにより黒く発色するのだそうだ。
この感熱紙、インクリボンを消費しないので大変お得だったのだが、大変大きな欠点がある。印刷面が大層劣化しやすいのだ。
皆様、一年前のレシートや映画のチケットの半券をコートのポケットの中から発見してしまった事はないだろうか。そのレシート、表面の文字が薄く変色してはいなかっただろうか。
空気、湿度その他諸々の要因により、感熱紙は簡単に劣化してしまう。熱による化学反応によって文字を印刷できる、というこの感熱紙の個性が文章の長期保存を不可能にした。
おそらく今、文芸部時代の原稿が出てきたとしたら、その大部分はおそらく色が抜けて真っ白になってしまっているだろう。
ちなみにワープロ用の感熱紙。こちらも『ワープロ 感熱紙』で検索するとコクヨさんの商品を見つけることが出来る。
Amazonはすごい。何でも手に入る。
条件達成である。
2.文章保存のための記録媒体の確保
それではこちらの問題を解決していこう。Amazonと一緒に。
世間に記録媒体は数あれど、ワープロが記録可能な記憶媒体はただ一つ。3.5インチサイズのフロッピーディスクのみである。
ちなみにフロッピーディスク[floppy disk]とは、
[名]コンピューターの記憶媒体の一つ。プラスチックの薄い小形の円盤に磁性体を塗布してジャケットに収めたもの。磁気に弱い。略称はFD。
若い人はご存じないだろう、確実に。
これは一昔前、今日のUSBフラッシュメモリーや、スマホで使用するmicroSDカードのように当たり前に使われていた情報記録媒体である。PCでももちろん使用されていた。
このFD、磁気を使ってデータを書き込んでいるために磁力に非常に弱く、例えばブラウン管テレビの上に乗せっぱなしにしたり、カバンの磁石の部分に近づけたりするとデータが消滅して読み込めなくなる。大変にデリケートな記録媒体なのだ。
保存容量は1.44MB。目の錯覚でも誤植でもない。そう、メガバイトの世界である。WordやExcelなどで作成した比較的容量が軽めの書類でも、このFDにはわずかな数しか保存できない。よく学生時代、課題の提出に使ったものである。
このFDこそがワープロにおける文章保存の要なのだ。なぜならばワープロにはPCのように内蔵メモリが搭載されていないからである。
これがないとワープロで入力した文章は、電源が落ちた瞬間に消滅するので、なんとしても見つけなければならない。
『ワープロ FD』で検索してみると富士フィルム、TDK、日本マクセルと中々の有名メーカーのものが見つかった。
やっぱりAmazonはすごい。何でも見つけられる。
こちらもまた、条件達成である。
3.落ち着け、水沢。そもそも、アレ動くのか
さて、最後の問題を解決していこう。
世の中には私と同じくワープロを愛する、いやそれ以上に、そもそも文章を書くことを生業としており、日々ワープロを使用しているが故に必要としている人々がいるのだ。
その救世主こそワープロの修理ショップである。メーカーによる保証修理がすでに終了してしまい、壊れたパーツを入手することが難しくなった今日、このショップの存在こそが我々の最後の生命線と言えよう。
『ワープロ 修理』で検索してみると、何件かのショップにヒットする。これでショップに修理を依頼し、プリンター部分の修理が完了出来れば問題は全て解決、こちらも条件達成となる。
だが、ここに一つ引っかかるポイントがあった。
なかなか、お高いのである(小声)。
修理の基本工賃にパーツの交換、これだけでお値段なんと約3万円。中古のノートPCを1台購入して、お釣りが来るお値段である。
さすがの私も躊躇した。
以前の私ならそれでもかまわん、金なら出す!と修理を即日依頼したかもしれないが、それは『作品は須く印刷をして本を作成する』という同人癖のようなものが、骨の髄まで染みこんでいたからである。
たとえこの世に1冊しかない、自分のためだけのコピー本だったとしても、表紙の紙を選ぶ所から始まり中に遊び紙を入れたりとこだわりぬいて作り上げたそれはいわゆる『限定初版本』。当時の私にとってはこの世に本という形で現れただけで尊かったのである。今までに一体何冊の『自分のためだけの小説(黒歴史風味)』を作ってきた事か(遠い目)。
今の私に必要なのは、印刷機能ではない。
4.PCとの互換性、もしくはインターネットへの接続機能の可不可←NEW!
上記の検証が新たに必要なのである。
時代の流れに応じて私の意識も変化した。今の私にとって小説をネットに投稿して様々な方に見て頂き、更には、たくさんの作家仲間と交流ができるというのは本当に画期的で、素晴らしい事なのである。
なんとしても条件達成したいところであったが、結論から言うと、この問題は解決不可能であった。
ワープロの後期型モデルにはインターネットに接続する機能が搭載されていた。電話回線に直接つないでダイヤルアップ方式で接続する、という当時としては一般的な方法である。
まず、私の愛機は中期型でその機能がそもそも搭載されていない。
そして万が一、当時30万円近くした後期型を現在2千円くらいで入手できたとしても問題が解決したことにはならない。
まずダイヤルアップ回線に接続するのは、現在は手間がかかる、ということ。我が家はフリーWi-Fi対応なのである。
そして、我々が普段何気なく見ているサイトには多くのプラグイン、セキュリティなどが存在するのだが、そのほとんどにワープロ専用のブラウザが対応できない。ワープロ独自のウェブブラウザなので、PCならば存在する追加パッチも存在しないから、バージョンのアップデートをすることも出来ない。
よってまずまともにサイトをブラウジングすることが出来ないのだ。
よってネット接続は不可能であった。
さすがにAmazonは助けてくれない。
次にPCとの互換性である。これに関しては外付けのFDドライブさえあれば万事解決ではないのか?と考えていた。記録媒体での情報のやりとりだけですむのではないか、と。
だがなんとワープロ、PCとは根本的に互換性がないのだそうだ。
Amazon…Amazon、なんとかしてくれないのか。君なら何かあるだろう。そう思って検索してみたが、ヒットしたのは『ワープロフロッピー変換サービス』1枚4.500円(税別)、そして『リッチテキストコンバータ』というソフト、お値段15.750円である。
非生産的である。ワープロで文章を入力する度に外部委託するとか、ソフトを使ってコンバート作業を挟むとか、現実的ではない。
消耗品だけの問題だったらまだなんとかなったかもしれないが、これは不採算事業であると言わざるを得ない。
完敗である。
私は書院さんとの再会を断念することにした。
ああ、世の他の文筆家の方々は一体どのように執筆活動を行っていらっしゃるのだろう。
ネットに投稿してらっしゃる方々は、どのような執筆環境でどのようなソフトを使ってらっしゃるのだろうか。
ノートPC?
デスクトップPC?
タブレットにキーボードをBluetoothで接続して?
ま、まさかスマホで直に?
『小説家になろう』にお邪魔させて頂くようになってから様々な作家さんと交流していくうちに、実は最近の主流はスマホでの直接入力なのだとわかり、現在私の適応能力の無さに打ちひしがれているところである。
そしてソフトである。
王道なものとして取り上げるならMicrosoftのWordだろうか。マニアな所で一太郎もあるけれど、小説などの長文を書くのに向いているのかどうかはよくわからない。
でもMemopadも使えないこともない。書式、何も変更できないけれど。そもそも皆様、縦書き派なのか横書き派なのか。
ぜひ様々な方から伺ってみたいものだと思っている。
もしかしたら古き良き文豪よろしく、専用の原稿用紙か何かに万年筆で草稿を書き上げていくスタイルの方もいらっしゃるのだろうか。
ちなみに我が父はこちらのタイプで、理由は簡単。もう年寄りなのでキーボードが打てないからである。以前は小遣い稼ぎでよく文章起こしをやったものである。
ちなみに私の上記のような文筆家に対するイメージは、小学生の頃に読んだ猫十字社先生の『小さなお茶会』という漫画に起因する。
物語の主人公は猫のご夫婦で奥さんの『ぷりん』は今で言う専業主婦、旦那さんの『もっぷ』、お仕事はなんと詩人なのである。
エピソードの中でもよく『もっぷ』が原稿用紙を前に万年筆を握っているシーンが見受けられるので、私の妄想の中に存在する文筆家の根底にはこの漫画があると言っていい。
先生にお茶です、とか言ってコーヒーを出したり、書き上げられた草稿をPCで文字起こしするような、そういうお手伝いをする職業体験はないものだろうか。
閑話休題。
今まさに新型のワープロが欲しい。
USBでPCと接続可能でプリンターからすぐに印刷が出来て、Bluetoothを搭載、インターネットブラウジング可能。メモリーはSDカード差し込み型で、内蔵メモリ有り。持ち運びが可能、せめて2Lのペットボトル1本くらいな重量のワープロが。
可能ならばどこかのメーカーに開発して頂きたい。今すぐに。
ワープロならばPCのように突然ポップアップを出してこない。
いきなりシステムエラーなどと言ってプログラムを強制終了することもない。余計な機能を全て排除し、入力活動だけに没頭できる。
PCはある意味パンドラの箱なのだ。ほかの機能も使えると思うと、ついそれも使いたくなってしまう。PCに非はないのだが、駄目なものは駄目なのだ。
しかし、駄々をこねても始まらない。
ワープロの時代は終わってしまったのだから、私は新しい時代の、文章を入力する為のガジェットを用意しなくてはならない。
言葉自体が脳内に湧いて出てきても、書き留められないのではただの妄想だ。ああ、脳内でわき出た言葉を自動的に文字変換できる機能が人体に備わっていれば良いのに。
そういった様々な逡巡と葛藤、時々妄想の末にとうとう私は、ある文章入力専用ガジェットにたどり着いた。
その名は『pomera』(ポメラ)。
メーカーオープン価格49.800円(+消費税)の『超高額文房具』である。
(思い出は、ここまで。未練も、ここまで。)
激しいAmazonプッシュがありましたが、内部の人間ではありません。
サブリミナル効果を狙ったステルスマーケティングでもありません。
私は『小説家になろう』に投稿させて頂くようになってから、ありがたいことに様々な方と交流を持つことが出来ました。
その中で少しワープロ関係のお話を伺うことができたのですが、やはりネックは壊れてしまったパーツの修理のようですね。
消耗品などは購入できるのですが、いつまでこれを作り続けてくれるのだろう、と不安になります(コクヨは神。はっきりわかんだね)。ネット投稿が主体の場合では、ワープロを使用する意味はほとんどないと言っても過言ではないのでしょう。
切ないですが、ワープロを現役で使い続けるのは、なかなか難しいようです。
次回は、私の新しい相棒についてです。