01.ソーダ色の空と君の瞳。
さて、第一話です><;;
ああ。緊張するなぁ・・・。
「ミーンミーンミーン……」
うざったいほどに、蝉達が大合唱している。1週間しか生きられない昆虫って、あまりにも短すぎるんじゃないかと、蝉達に非難の目を向けてみる。
杉野絵里衣は、今年、「春の宮高校」に入学した。偏差値は、普通より少し高めで、高校入試の時は、今までの絵里衣の学歴じゃ、とても入れそうになかったのだが、ガリガリ勉強し、友達の「メイ」と一緒に、この「春の宮高校」に入学できた。
「蝉は、元気でいいね……」
なんて、一人、放課後の自分の教室で呟いてみる。
高校生になってから、友達と言える程の友達は、いない。
いつも、絵里衣は教室の中で、静かな生徒。という、『仮面』を付けて過ごしているからだ。
自分から、「近づかないで」とオーラを放っているためだろう。
唯一の友達のメイとは、クラスが別々になってしまい、3か月近く話していない。……どうしているのだろうか?
絵里衣がこうなったのも、中学生の時が原因だ。中学生になってから、独り言を言う癖も付いてしまった。
絵里衣も、蝉のように、小学生までは、うるさく元気に過ごしていた。
男子と一緒にかけっこしたり、鬼ごっこしたり、ドッヂボールも。女子と男子が一緒になって、遊んだ記憶がある。中学生になってからというのも、そんなことは、一切しなくなった。
中学生生活は、そんなに楽しかったわけでもなく、人ごみの中に放り投げられた気分だった。
クラスの中が、お互いがお互いを拒否しあう感じで、とても居心地が悪かったのだけは、はっきりと覚えている。
あとの記憶は、思い出したくもないので、いつの間にか忘れてしまった。
「さて、部誌を書くために、図書室に寄りますか」
サッサと机の横に下げているスクールバックに、机の上の荷物を入れ始めた。
絵里衣は、文芸部に所属している。
何故かと言われれば、それは、小説を書くのが好きだからだ。小説を書いていれば、その間は、見苦しい世の中に目を向けなくて済む。
不景気だとか、大学進学だとか、バイトだとか、クラスの中で孤立しているだとか、どなり声だとか、自分の家の猫の「リク」が、でぶ猫だとか。
そんな事を、全てひっくるめて、忘れられる。だから、私は小説を書く。
絵里衣は、机の上に出していた、筆箱とメモ帳と、その他ファイルをしまうと、椅子を机の下に入れ、スクールバックを右肩にかけて、急いで教室を飛び出した。
別に急に飛び出すほど、急いでいないのだが、明日から夏休みが始まるというウキウキ感のせいだろう。
「ふいー。到着」
キィ……バタン。
ドアノブを回して入る。
キョロキョロと、誰かいないかと辺りを見渡すが、放課後のため、いないはずである。
ふぅ……。と、溜息をつき、急ぎすぎて、びっくりした心臓を落ち着かせる。
東棟の2階の突き当たりにある、図書室。ちなみに、その隣の教室は、文芸部が普段、活動している部室となっている。……夏休みの1か月前から、夏休み明けまで、部活は活動しないので、今は、無人と化しているが。
「えーと。昔の甲冑とかの資料無いかな……」
図書室に入って、すぐ右側の棚をあさり始める。
絵里衣が、今書いている部誌用の小説は、戦国時代の物語である。なので、その時代の参考資料などを探しに来たのだが。
「やっぱ、無いかなぁ」
この学校の図書室には、さまざまな資料となる本がたくさんあって、「いつも、小説を書く時に重宝する」と、気の良い先輩から進められて、よく、絵里衣もここへ来るようにしている。
……たとえば、昼休みとか、今日みたいに時間がある放課後とか。
クラスに馴染めない絵里衣が、ここへ来るようになったのも当然と言えるだろう。
「あー……。やっぱ無いかな。って荷物重いな〜」
夏休み1日前とあって、色々詰め込んだ結果、やはり、スクールバックが重い。
貸出しをする受付カウンターの上に、ドスッと、置いてから、また、右側の棚を探す。
――30分後。
「疲れた。もう、いいや」
諦めが早いのは、母親譲りといったところだろうか。見つからない資料を探して、30分も過ぎた。見つからないものは、見つからないのだろうか?
そう思って、絵里衣は、スクールバックを置いたカウンターを見た。
「え……」
――バックが無い。
そんなはずは無い。しっかり、カウンターの上に置いたはずで、絵里衣が独り言を言うのは、人がいないところでしか言わないのだから。
急いで、カウンターの下とか周りを狂ったように散らかしながら、探す。
……無いっ無い。無い。無い。無い。無い!!
右側の棚を漁ると、ちょうどカウンターと反対側になるので、見えない。
その間に、図書室のドアが開く音もしなかった。
だとすると、誰かが、元から図書室に居た……?
(まさか、誰か居たの……?)
「よう。すーぎのっ!」
「ほわ?!」
突然、後ろから声をかけられて、振り返ってみると、自分より、10センチくらい背が高い――165センチぐらい――の見たことのある男子が爽やかに笑っていた。
……だが、誰だったかまでは、声を掛けられたことにびっくりして、思いだせなかった。
「おい。杉野。そんなに、怖がらなくてもいいじゃん」
「……だ、誰ですか?」
「……同じクラスの奴らの顔くらい覚えとけよ」
そんなことを言われたって、頭の中は、スクールバック消失と、いきなり現れた人物と、様々な情報がぐるぐる回って、思いだせない。
「同じクラスでした?」
「ホントに、あんたって、無関心なんだな」
「え」
「ホレ。バック」
「……あっ」
ひょいっと、出されたスクールバックが自分のものだというのに、気付き、取り返そうと、手を伸ばしてみるが、届かず、すぐ、後ろに隠されてしまった。
「オレは、岡崎 光。隣の席だよ。それくらいは、覚えていて欲しいね」
そうだ、この男子は、隣の席の岡崎光。なんか、クラスの中で、人気者。男子にも女子にも人気が高くて、いつも、その周辺は、ワイワイ賑やかだ。
輝いてるって表現した方がピッタリ来る人。
いつも、目の奥には、希望が宿っているかのように、瞳が輝いている印象を受ける。
「……返してよ」
「えー。それだけ?無関心すぎるって」
「人とは、あんまり関わりを持ちたくないの」
「なんで?あんなに、大声で、誰かに話してるって感じの独り言を言うくせに?」
どうやら、この人が、犯人で、しかも、最初から図書室に居たらしい。
さらに、私の独り言も聞かれていたらしい。
「……返して下さい」
「ドライな杉野のくせに、独り言が楽しそうだったり、表現豊かだったぞ〜」
返して下さい。と、右手を差し出しながら言ってみたのだが、ニヤニヤしながら、何か言われた。
「……。」
「ドライ杉野から、ツンデレ杉野に改名だな〜」
「……。」
「ツンデ〜レッ。すぎの〜♪」
変な歌まで歌われた絵里衣は、我慢が出来なくなって、右手を握りしめて、静かに下ろす。
「……いい加減にしてください」
「すーぎのーツンデレぇ〜〜♪」
「止めて」
「……お、怒った。まさかの感情変化が見れたぞ。はじめて見た。杉野がマジ切れしたとこ」
「早く返して下さい。部誌用の原稿が、中にあるんです。大切なんです」
「意外だな〜。いつも無関心なのに〜。可愛いとこあるじゃん?」
馬鹿にされたのが恥ずかしくて、顔が赤くなるのが、自分でもわかる。
しかし、それも、束の間。馬鹿にされたことに、怒りがわいてくる。
馬鹿にされた。この人、感じ悪い。私を馬鹿にしたいの?
そっちが、馬鹿にするなら、こっちだって……。
絵里衣は、かなり強引な方法に出る。
ドンッ。
「いてっ」
ドサッ。
バッ。
「おい。杉野っ」
岡崎に全身でタックルを喰らわせて、落ちたスクールバックをすぐに拾い、岡崎を上から睨みつける。
「人の物をとるのは、犯罪よ」
「……いってぇ。何すんだよ」
「あなたがこんなことするのが、いけないんでしょう。私だってこんな事したくない」
「……っ」
「あなたのせいで、時間がオーバーしちゃったじゃない。資料見つけて帰るはずだったのに」
「……。」
「もう、二度と関わらないでっ」
キィィッ……バタンッ!
乱暴にドアを閉め、図書室を後にする。
彼の瞳は、いつもは、透きとおって夢に満ちて輝いているのに、最後に見た瞳は、何かが棲みついているような、真っ黒く、輝きがなかった。
それに、なぜか妙に悲しげだった。
昇降口から靴を急いで履き替えて、外へ出ると、真っ青な、ソーダ色な空が広がっていた。
「ソーダ」なんて、単語が浮かんできたのは、小学校以来である。
(……家に帰ってから、小学校以来のソーダ水を飲もうかな。)
嫌なことを忘れたい一心と、早く飲みたいソーダ水が頭の中をぐるぐる回りながら、絵里衣は、自転車を吹っ飛ばして家に帰る。
蝉達の合唱は、まるで、一週間で終わる命を悲しみながら合唱しているかのように、今の絵里衣には聞こえた。
……こんな、感じです。
まだまだ、至らないところもあると思いますが、
「きちんと書けるようになった」と、言えるまで、
練習頑張ります;;