天空の社 〜疲れたOLは狐っ娘とおにぎりを食べる〜
神様とか宗教とか全然分からないので、なんとなく雰囲気で読んでもらえたら
ある日、務めている会社が入っている雑居ビルの屋上に立派な木が生えていることに気がついた。
「あんなところに木が生えるものなのね…」
「え? 何? どれの事?」
一緒に休憩でビルから出ていた同僚には見えていない様だ。
「働きすぎかしら…」
「否定できないけど…」
否定して欲しかった。別に我が社はブラックでは無いのだ。たぶん。
深夜、終電も終わった時間に仕事が終わり、会社の戸締りをした。
私の部屋は徒歩圏なので終電は関係ないのだ。そう、ちゃんと帰れる。
いつもならエレベーターで降りるところ、階段を登ってみた。
昼間見た木が気になっていたからだ。
階段を登っていくと最後の踊り場にドアがある。
「学校の屋上は立ち入り禁止で鍵が掛かってたな…」
当然だが、雑居ビルのドアの鍵は内側からなら開けられる鍵だ。
警備のスイッチは、ちゃんと鍵で開け閉めすれば問題ない、はずだ。
私は90度回すタイプの鍵を捻りドアを開けた。
「やっぱり私、疲れているんだわ…」
屋上には稲穂が金色に輝く田んぼが広がっていた。
「田んぼと言うと水が張ってあるイメージがあるけど、乾いてても田んぼなのかな?…」
振り向くと大きな木が何本も立っていて、小山の様になっていた。
緑の中に赤い鳥居があって、その向こうに小さな社が建っていた。
社に近づくと、そこには華ロリの少女が居た。
上半身はチャイナドレス風のデザインで、袖と下半身は花の様なデザインになっているドレスを纏い、顔の中央に寄せる様に小さなレンズが置かれた丸メガネをかけていた。
「なぜチャイナ」
疑問には思ったが、突如眠気に襲われ少女に誘われるまま膝枕で眠りに付いたのだった。
チャイナドレスは中国の民族衣装とかではないらしいし、ましてや中華ロリを土地神さまが着ていても別に問題ないだろう。
いや、あるか?
と言うか、頭には立派な耳があったし、モフモフの尻尾っぽい物も見えたから、アレは神様ではなく、神様の使い、神使のお狐様だろうか。
主の宇迦之御魂神のcvはやっぱり桑島法子さんなのかしら…。
翌朝、日曜日の朝、目が覚めると自宅のベッドで寝ていた。
メールも何も来ていないところを見ると、ちゃんとセキュリティーのスイッチも入れて帰ってこれた様だ。
危ない危ない。
前にエレベーターの前で寝てしまった時はだいぶ怒られたっけ。
「ちゃんと化粧を落としてから寝るとか、偉いぞ、昨日の私。いや、既に今日だったか」
会社で1人昼まで仕事をして、戸締りをしてから再び屋上に向かった。
普通の屋上だった。
いや、普通ではないところが一つ。
小さな鳥居と祠があった。
「えーっと、お稲荷様は五穀豊穣の神様とかだっけ?」
狭い雑居ビルの屋上から周辺を見回すと、見えるのはビルばかりだ。最寄りの駅は3路線と地下道で繋がる地下鉄の駅があり、その向こう側には高速道路のインターチェンジもあるらしい。運転しないから知らんが。
「ここも昔は田園地帯だったのかねぇ…」
開発の際に元あった社は取り壊されて、こんな小さな祠に移されたのか。
引越し先を用意しただけましなのか、逆に良くない事なのか…。
「良かったら、家くる?」
隣に白髪の美少女がしゃがんでいた。
頭に大きな耳が生えていて、顔には赤い印の様なものがいくつか書かれていた。
尻尾の様に見えたのは後ろで束ねた髪の毛の様だが、不自然にブンブンと動いている。
隣に腰掛けると白い塊を差し出してきた。
おにぎりだった。
具も入ってなくて、塩だけのおにぎりだったけど、なんだか暖かい物を感じて泣いてしまった。
気がつくと少女は居なくなっていた。
明るいうちに会社を出る事に違和感を感じながら、私はホームセンターを目指していた。
部屋の中に飾る祠みたいなやつ、なんだ、神棚って言うのかな。全然わからん。
宗派とかもあるんだろうか。気にしてもわからんものはわからんし、なんとなくこれで良い気がしたやつを買って帰った。
翌朝、目を覚ますとおにぎりがあった。
あの子が朝から用意してくれたのだ。
いつ炊いたのか分からんけど。
「貴方は何が食べられるの? と言うか、むしろ何がダメ?」
首を傾げるだけで答えてはくれなかった。
確か狐は雑食のはずだが、犬や猫だって人間の食べ物で食べられない物があったはずだ。チョコとか。
「でも、見た目は人なんだよなぁ」
そんな心配は不要だった。
「こんな漫画、あったような…」
主にあの子が食事の支度をしてくれるのだ。初めは米と塩しかなかった様だが、私が買い込んだ食料を使ったり、時には私が買った覚えのない食材も出てきた。
「よし、今日はこの辺で良いかな」
「お、最近早いね、彼氏でも出来た?」
「それ、セクハラなんで気をつけないと破滅しますよ?」
それから、なるべく夕食の時間に帰る様になった。
彼女と食べる食事は美味しいし、気分が良い。
そうこうしているうちに、顔色も良くなったし、周りの人の態度も変わってきた。
いつもぶつぶつ言いながら夜中まで働いている女は気持ち悪かったらしい。分かる。
連休に実家に帰った。気になることがあったからだ。
あの子のことは気になったが、まあ、もともとうちの住人ってわけではないのだから、居なければいないでなんとかするだろう。なんなら、実家の近所にも社がある。口頭で伝えたのが伝わっているかは分からない。
学生の頃のスケッチブックを開くと、あの子の着ている華ロリドレスのデザイン画が見つかった。
「そうだ、これを書いたの、神社の境内だった…」
子供の頃から私は1人でいることが多かったが、いつも誰かに見守られている気がしていた。
「わざわざ出てきたのは、それくらいヤバい状態だったって、事?」
胸がざわつく。
ダメだよ、私はダメなんだ。
今だって、貴方が居てくれるからこうして居られるんだ。
独りなんて無理だよ?
翌日一番で帰って部屋に飛び込むと、テーブルには食事の支度がしてあり、2脚ある椅子の一脚には彼女が座って居た。
「ただいま」
おかえりの言葉の代わりに尻尾の様な髪の毛が揺れていた。
主人公がこの先どうなるのか、とか、2人の関係は、とかぶっちゃけ思いつかないのでご想像にお任せします。
こう言うので長編書けるような人生を送りたかった感(?