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ケース3 春、去り際に燃ゆる想い㉕

 怯える創太。嬉しそうに笑う幸子。

 結局彼は、洗いざらい話すことを決心したようだ。

 タオルで顔の汗を拭き、ポツリポツリと話し始めた。

「武藤のおっさんは、俺が高校で陸上部にいた時の顧問だ。優しそうな顔で、実際優しいんだが、怒った時は怖くてよ、よく叱られてた。……ああ、勘違いすんなよ。別にそのことをウザったく感じていたわけじゃねえ。むしろ、あー、親父……みたいな気がして嬉しかったんだ。でも、さ」

 創太の顔が苦しそうに歪む。

「俺さ。きっと調子こいてたんだ。ちょうどあん頃から博打にハマってよ。授業をサボってパチンコやら賭け麻雀とかやってたんだ。で、他校の奴らと麻雀やってる時に喧嘩になっちまって、相手の学校の一人を大怪我させちまった。

 ……当然、部にはいられなくなってさ。武藤のおっさんとも顔を合わせづらくなって、逃げるように高校もやめちまった。おっさんは俺に期待してくれて、いっつも構ってくれてたんだ。なっさけねえよな。そんな、どうでも良いことで裏切っちまったんだ。どのツラ下げて、おっさんに雇ってくれって言えば良いんだ」

 後半は涙声だった。創太はタオルで顔を隠し、鼻をすすった。

「……お前、何カッコつけてるんだ?」

 来世は、創太の持つタオルを剥がし、胸倉を掴んだ。

「お前は本当に自分のことしか考えられないみたいだな。お前は、逃げてそれで終わりだったんだろうよ。けど、武藤さんは、顧問としてだいぶ責められただろうし、辛かったはずだ。それをお前は、ろくに謝りもせずに逃げたんだろうが。

 この際、就職のことは二の次だ。お前、ここに面接を受けに行け。で、ありのままを話せ。過去のことも、これからのことも、現状も全部だ。話して、謝って、恥も何もかもかなぐり捨てて雇ってくれって言え。どうなるかは知らん。

ただ、覚えとけ。大人になるってことは、真っ当に生きるってことは、責任をもって生きるということだ。お前は、責任から逃げてきた。でも、これからはきちんと生きるって決心したんだろうが。だったら、けじめを付けに行って来い。そうすれば、少しだけお前は大人になれる」

 創太は、来世の目から逃れるようにそっぽを向いたが、すぐに顎を掴まれて正面に向かされた。

 鋭い来世の眼光が、創太の逃げ腰を砕くように射抜く。創太の額からまたもや冷や汗が流れ、瞳が揺れ動いていたが、やがて焦点が定まった。

「わ、分かった。俺、面接に行ってくる。ちょっと電話貸してくれ」

 来世は頷き、彼から離れる。意を決した顔でソファから立ち上がった創太は、受話器を手に取り、スポーツティーチャーに電話をかけた。


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