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ケース3 春、去り際に燃ゆる想い⑱

 荒ぶる風に滝のような雨。今日は雨が止むことはないだろう。

 分厚い墨のような雲は、煌めく星と月を隠し、自然の光は街から立ち去ってしまった。

 代わりに、というよりは変わらずに街は人工の光を発している。大通りは雨と風に苦戦しながらも家路につく人がいるくらいで、ほとんど人通りはない。

 それらの光景とは隔絶するように、入り組んだ路地裏の一角に地下へ伸びる階段がある。その階段は明かりがなく、入り口から見ると洞窟の中へ吸い込まれていくような錯覚を覚えさせた。

 徳大寺 創太は、十人もの仲間を背後に従え、その入口へ立つ。手にはバットが握られ、仲間たちも武器を携えている。

「おい、間違いないだろうな?」

「先輩、それ五度目っすよ」

「うっせえ」

 創太は、金髪頭の後輩を軽く小突き、手を振って降りることを報せた。

 一歩一歩、転ばないように足元を確かめながら降りていく。

 地下に向かうほど息苦しい。雨の雫に混じって汗が流れていき、浅い息を何度も繰り返す。

(ん?)

 創太が前に突き出していた手に、固い感触が伝わってくる。慎重に手を下の方に動かしていくと、今度はヒヤリとした突起物に手が触れた。形状から考えるに、ドアノブのようだった。

「着いた。行くぜ」

 創太は小声でつぶやき、何度も深呼吸をした。心臓の鼓動がやけにうるさい。創太は、手に持ったバットのグリップを強く握りしめ、ドアノブを勢いよく回し、ドアを開け放った。

 ――まず感じたのは、酒の匂い。次に男臭いニオイが鼻を掠めた。

 ここは地下にあるバーだ。左手に五人掛けのカウンター席、中央から右側の壁際にかけて、テーブル席が八つある。

 貸し切りなのか、客はおらず空いている。……真正面に見えるテーブル席を除けば。

 テーブル席には、スーツ姿の男が二人向かいあって座っている。皺ひとつなく上品な色合いのブラックスーツ。一目で高級ブランドのオーダースーツだと分かる。

「おうおう、ちょっと良いかい」

 創太は威圧的に言葉を発しながら、テーブルに視線を向けた。テーブルには、銀のアタッシュケースがあり、中には隙間さえないほどにぎっしりと札束が収められている。

「誰です? 名乗りなさい」

 温度を感じない声音で、二人の内の片方が言葉を発した。その男は、黒ぶち眼鏡にオールバックの髪が特徴的で、慌てた素振りさえ見せない。

(この野郎、すかしやがって)

 創太は、顔を真っ赤に染め、バットを地面に叩きつける。鈍く重い音が、室内に反響し、また静けさを取り戻す。

 それら一連の流れを、黒ぶち眼鏡の対面に座る男は、人の悪い笑みで眺めていた。

 非常に大柄な男である。体はスーツの上からでも分かるほど筋肉が盛り上がっており、三十cmほどの大きな革靴と、袖口から飛び出す巨石の如く拳は、見る者を圧倒した。さらに、スキンヘッドの頭に刻まれた大きな傷跡と、鋭くて大きい瞳、ヘッジが鋭く鉄さえかみ砕けそうな顎が、男の迫力を何倍にも高めている。


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