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ケース3 春、去り際に燃ゆる想い⑮

 創太は、病院を飛び出すと、真っ先に近くのファミレスに入った。

 食事がメインの目的ではない。店内には先に入店していた金髪頭の後輩が目ざとく創太を見つけ、手を振って出迎える。

「先輩、奢りますよ。有り金全部、渡しちゃったんでしょ?」

 朝といっても通勤時間を過ぎた時間帯だ。店内はそれほど人が多くなく、雑談のざわめきは微々たるもの。後輩の声はびっくりするほど大きく、店内の隅々まで聞こえた。

「ば、馬鹿野郎。声がデケーんだよ」

「あ、すいません。いつもので良いっすよね。おう、姉ちゃん、かつ丼とポテトフライ、ドリンクバー付きで頼むわ」

 頭を下げて厨房に戻っていくウエイトレスのお尻を、だらしなく眺めてから二人は向き直った。

「で、さっそくで悪いけど、例の件はどんな感じ?」

 創太が声を潜め問いかけると、後輩は周りをキョロキョロと見渡し、同じく小声で返した。

「ゲットしましたよ。俺のダチに情報屋やってる奴がいるんで、特別に教えてもらえたんですよ」

「マジかよ。神ポイント高いな」

 後輩ははにかむように笑い、コーラを飲み干した。

「や、マジで苦労しましたよ。けど、その甲斐あって、ばっちりです。仲間集めといたんで、あとはその日を待つだけっすね」

「へ、そいつはサイコー。本当にオメーには感謝だぜ。これでお袋の病気も良くなるにちげーねえ」

 創太は、運ばれてきたかつ丼に箸を差し込むと、ろくに噛まずに次々と米と肉を飲み込んでいく。後輩は、ぼんやりと豪快な食いざまを眺めながら真顔で言った。

「お袋さん、早く良くなると良いっすね」

「……おう。今度、顔でも見せに行ってくれねえか。お前らの顔を見りゃ、喜ぶからよ」

 来世が創太を捕まえたビル。そのビルを根城にしていたグループメンバーの大半は、創太の高校時代の後輩たちである。当時から創太は素行の良い人物ではなかったが、陸上だけは真摯に取り組んでいた。高校総体において、優秀な成績を誇るスプリンターであり、後輩たちにとっては憧れの存在だったのだ。

 時は流れ、創太はややだらしなくなった自身のお腹を撫でる。

「し! 食ったし、行くか。あ、わりーけど金貸してくれよ」

 後輩は伝票を手に取りつつ、惜しげもなく財布の中にあった二万円を創太に渡す。

「これ、どうぞ。返すのはいつでも良いんで。……へへ、つか、よく考えたら、創太さん。学生の頃からずっと金欠っすね」

「うっせ、見てろよ。お馬ちゃんでこの金を何倍にも増やしてみせるって」

「すっからかんになるのに缶ジュースかけますよ」

 今のところ、創太が全戦全敗である。缶ジュースを買う金すら惜しい創太は、何も言わずに無言で店を出た。


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