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ケース3 春、去り際に燃ゆる想い⑨

「ふぁいふえさん、うふかふぇってくるでふんね?」

 魔眼屋自慢のソファにどっかりと座り、口いっぱいに肉とご飯を詰め込んだ里香が呟く。その判別不能の呟きに、眉根を寄せた浜 幸子が答える。

「ちゃんと食べきってから喋りなさい。下品だし、意味が分からないわ」

 年上の姉じみた説教をした幸子の容姿は、八歳から十歳ほどの少女そのものである。ふんわりとした黒のショートヘアに大人びた表情が目を引くが、サイズの大きめの赤いTシャツと青いデニムパンツが子供らしい可愛らしさを感じさせた。

「……ふう、ごめんごめん。で、来世さんは、いつ帰ってくるんだろうね?」

「さあ? 無茶しちゃう人だけど、心配はいらないでしょう。それより、しだれって妖怪? 木霊? の探し人を捜索しましょう」

 幸子はノートパソコンを開き、流れるような指使いでキーを叩く。

 良いなー、と里香は隣で羨望の眼差しを投げかける。そのノートパソコンは、来世がいつも使っている事務所の備品だ。

入社して一か月足らずでパソコンの基本的な使い方をマスターした幸子は、来世に事務業務を行うことを許可されていた。

 しかし、里香は一切触れるなと厳命が下されている。……理由は、里香がドジをやらかしそうだから、だそうだ。

「……普段から面白い失敗するからよ。でも、大丈夫。きちんとコツコツ頑張ってれば、あなたにも事務仕事を任せてくれるわ」

 里香の視線に気付いた幸子が、画面から目を離さずに言った。

「そうかな。事務仕事もだけど、私、ここにきてからあんまり来世さんの仕事を手伝えていない気がするよ」

「それは、卑下しすぎだと思う。ほら、あなたと来世ちゃんのおかげで私は、ここにいられるわけだし、自信をもって」

 幸子は依頼内容をパソコンに記録し、目を閉じた。

「なかなか大変な依頼ね。探し人のヒントがいくらなんでも少なすぎる」

「そうだよねー。美しい黒髪と涼やかな瞳の女性なんていくらでもいるじゃん。……うーん、幼い子供を連れて最近まで顔を出していたってことは、子供を産める年齢の人だよね。じゃあ、あまり年配の方じゃないのかも」

(里香にしては考えてる。来世ちゃんがいたら、ちょっとびっくり顔になったかも)

 口に手を当て、声を上げずに幸子が笑う。失礼なことを思われたとはつゆ知らず、里香はため息を吐いた。

「……あーもう、これ以上は分かんない。どうしよう? やっぱり聞き込みとかしたほうが良いのかな」

「それが一番だわ。お化け桜を頻繁に見に行っていたなら、知っている人がいてもおかしくないでしょうから」

 里香は、ソファの背もたれに力なくもたれ、天井を眺めた。

「あー、地味なの嫌だなー。聞き込みって結構疲れるよね。効率の良い聞き込み方法とかあったら良いのに」

「効率的な方法……か」

 幸子は、里香の体を眺めた。

 活発な彼女らしく艶やかな茶髪のポニーテールと整った目鼻立ち。白と黒のボーダートップスの上からでも分かるほどの豊満な胸と、アンバーのチノパンに包まれた足は適度に引き締まりスラリとしている。

 幸子から見ても魅力的な容姿だ。ニタリ、と意地の悪そうな笑みで幸子は里香に近づいた。

「良い方法あるよ」

「え、ほんと?」

「ええ。……こうよ」

 幸子は思いっきり里香の胸をもんだ。

「う! な、な、なに?」

「この、エッチな体で色んな人を誘惑して、情報を引き出してやりなさい。むー、何でこんなにスタイル良いのむかつく―」

「ちょ、そんなのヤ! てか、それじゃ私、変態だよ。マジ嫌、断固反対!」

 里香が幸子の手を剥がし、激しく首を左右に振る。

「すっごい首の振り。は、クチュ」

 里香の毛先が幸子の鼻を掠め、短く可愛らしいくしゃみが飛び出す。

 一瞬、場が静まる。だが、きょとんと顔を見合わせた二人は、腹を抱えて笑い出した。

 しばらく、事務所は華やかな声に満たされたが、やがて里香が立ち、幸子も立ち上がる。

 二人は事務所を出て、お化け桜のある場所へ足を向けた。


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