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ケース3 春、去り際に燃ゆる想い⑧

 しだれが手招く。

 ――いったい誰を? という来世の疑問は、すぐに解決される。

 しだれの細い枝のような前腕に、カラスが止まった。

 黒いしなやか羽をパタパタと動かし、何度も鳴いている。

 人外疎通の魔眼によって何となくだが、来世にもカラスの伝えたいことが分かった。だが、しだれはよりはっきりと理解できるらしく、しきりに頷く。

「ほう、ほうか。ふんふん、おー。突っついて、糞を。ほほ、愉快愉快」

「……徳大寺のことか?」

「んー、そうじゃろう。こいつが創太何某に蹴られそうになったので、お仕置きをしてやったそうじゃ。たいそう慌てふためいておったとか」

 あー、と来世は納得した。徳大寺 創太に会ったのは今日が初めてだが、その様が手に取るようにイメージできる。

「……そうか。そういや、カラスは人間の顔を識別できるらしいな」

「そうじゃ。まだ腹の虫が収まらんらしいから、協力してくれるらしい。よし、頼むぞい」

 コクン、とカラスは頷き、羽ばたいていく。

「怖い小僧、ついてこい。こっちじゃ」

「おい、前を向け前を」

 しだれはカランコロン、と楽しげに下駄を鳴らし駆ける。

 ――まったくもってせわしない。

 来世は、せかした手前、その言葉を喉の奥にしまい込んだ。

 

 空を滑るカラスは、優雅に風に舞う。しかし、羽のない来世たちに優雅さは望めない。人混みをかき分け、額に汗を浮かべながら追いかける。

 肺が空気を求め、心臓が健気に血を体中に巡らす。

 まだ肌寒いとはいえ、これだけ運動をすれば汗もかく。濡れた服が肌に張り付き、来世は不快げに舌打ちを鳴らす。

「はあ、はあ、怖い小僧。妙じゃ」

「何がだ?」

「このー、そう。胸とかいう場所が、ドクンドクン言って気持ち悪い。病気か?」

「いや、違う。ただ、心臓が空気を体中に行き渡らせるために激しく動いているだけだ」

「ほう、これが……」

 手を胸に置き、しだれは頬を綻ばせた。

 来世には、その顔がとても幸福に満ちているように見える。

 走って心臓が高鳴るなど、桜の木には望めぬ経験。そのことが嬉しいのだろうか? 

「俺にとっては疲れるだけだが」

「何か言ったか?」

「いや、何でもないさ」

「そうか。……ぬ、怖い小僧。どうやら目的地に着いたようじゃぞ」

 視線を上空に向けると、カラスが同じ場所を何度も旋回していた。

 視線を下に降ろしていくと、シャッターが閉じられたビルが目に映る。

「あそこは……。しだれ、お前はここで待ってろ。さっきみたいに中に入ってくるなよ。言っとくが、ふりじゃないぞ」

「ふう、ふう、なぜ?」

「あのビルは、三か月くらい前に倒産した会社の跡地だ。ロクでもない連中が根城にしてる。俺が行って、話をつけてくるさ」

 しだれは、目を細めた。

「ほー、話をねえ。本当に話で済むんなら良いが、暴力はいかんぞ。人はすぐ暴力に頼る」

「……ふん、それは相手次第だ。どっちにしろ、ここでチェックメイトだ」

 来世は、口角をグッと上に上げ、拳を握りしめた。


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