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ケース3 春、去り際に燃ゆる想い③

「ふぉ、わあ!」

 里香は奇声を上げ、頬と耳を赤く染め上げる。

 来世は、眉を顰め、手を彼女の額に当てた。

「熱か? まったく、教えただろう。体調管理は基本中の基本だ。肝心な時に動けなくては困るぞ」

「い、いえ違います。そうじゃなくて……そう、走ったから暑くて」

「ふん? まあいい。具合が悪いなら帰るんだ。大丈夫そうなら、って何を笑っている?」

 風か否か? 枝をカサカサと揺らしながら、お化け桜が笑う。

「すまんな。お主があまりにも見当違いなことを言いよるから面白くて。なーに、悪気はないとも」

「……そうか。で、何の用だ? 俺は忙しい。ただ何となく話しかけたというならば、他をあたってくれ」

「ま、待ってほしい。用ならあるとも。人探しをしておる。どうか探してはもらえないだろうか?」

 来世は、片眉をピクリと動かす。

「驚いた。人探しの依頼は山ほど受けたことがあるが、桜の木から頼まれたのは人生で初だ。まったく、どうしたものか」

「来世さん、探してあげましょうよ。木から話を聞けるなんて能力ある人、そうそう出会えないはずです。この人、ん? 木にとってはラストチャンスかも」

 必死な形相で里香は訴える。が、来世は、ため息をつく。

 悪い病気だ。この子は、他者を思いやる気持ちが強すぎて、たまに度を行き過ぎた行動をとることがある。

 困ったものだ、と来世は言葉を紡ぐ。

「良いか、頼み事されたらなんでも引き受けるのはなしだ。何でも屋はボランティアじゃなくて、仕事だ。利益がないなら依頼は受けない」

「ん? 何でも屋とな。それはどんな仕事じゃ?」

「お金を払えば、どんな頼まれごともする仕事ですよ、お化け桜さん。言いにくいな。名前とかあったら教えてほしいです」

 恐る恐る里香は答えた。

 お化け桜、と呼ばれた桜の木は、不満だったのか避難がましい声音で言う。

「ワシの名はない。が、お化け桜ではなく、そうさな、『しだれ』と呼んでもらおうか。それより、ほうほう、お金を払えばどんな依頼もか。……ワシは金はないが、それなりのものを用意できる。ワシの細い枝を折れ」

 ええ、と里香は仰天するが、来世に躊躇はない。言われるがまま枝をへし折った。

「で、これが報酬のつもりか?」

「落ち着けい。そら、その枝にはワシのありったけの力を込めとる。何か感じんか?」

 来世は、じっくりと枝を眺める。彼に霊能力はない。明確に何かを感じはしないが、じんわりと枝から温かみを感じる気がした。

「来世さん、その枝は、依頼料代わりになるんですか?」

「なる、どころかもらいすぎかもしれんな。そもそもだ、人間と意思疎通が可能なほど意思が発露した桜の木、という時点で霊的にはかなりの力を持つだろう。恐らくだが、しだれは木霊かもしれないな」

「木霊? たまごの新種みたいな名前ですね」

「馬鹿が。木霊は木に宿る精霊、もしくは魂と考えられている存在だ。神、という考え方もあるから、そいつが力を込めた枝ともなれば、今後霊的な依頼の際には強力な武器となるだろうさ。……ふん、良いだろう。詳しい話を聞こう」

 しだれは嬉しそうに枝を揺らした。

「そうか、ああ、ありがたい。ワシはな、女性を探しておるのじゃ。美しい黒髪と涼やかな瞳の女性でな、彼女は学生の頃からワシに話しかけてくれた。お主のような奇怪な能力はないから、何となく話してくれたのだろうが、嬉しくてなー。

 彼女は母になって、幼い子供を連れて最近まで来てくれていたのだが、めっきり姿を見なくなってな。どうなったのか知りたいのじゃ」

 来世は、眉根を寄せた。

「その女性の名前とか、住んでいる場所とか知らないのか?」

「いやそれ以上は知らん。お主らのように足も、鳥のような羽もないのだ、無理を言うものではない」

「や、分かっていた。念のための確認だ。……これは、難航しそうだな。まあいい、ともかく依頼を受ける」


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