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ケース2 死神の足音㊱

 影の背面に、深々と矢が突き刺さっている。鈴は矢の中ほどで結ばれており、風に揺られて澄んだ音を響かせた。

「どうなる?」

 影は答えない。だが、返答の代わりに、砂のように散り散りになって消滅した。

 膝から崩れ落ちた来世は、額の汗をぬぐう。寒々とした風が、火照った身体を冷やして心地よい。

「終わったみたいね」

 振り向けば、浜 幸子が佇んでいる。

 軽やかな笑みが、幼い顔の頬に浮かぶ。憑き物が落ちた様子、といったところだろう。

「ああ、だがまだ安心できない。会社にある呪いの品の無力化。そして堀と話をしなければならない」

 来世は立ち上がり、矢と鈴を拾い上げた。

「この鈴があれば、呪いの品々は無力化できる。特に黒い鈴には効果てきめんだろうさ」

「聖なる鈴で、悪い鈴に対抗するってところかしら? 面白いわ」

 見た目の幼さ通りに、神は笑う。

「来世さん、無事ですか?」

「ああ、問題ない、っと!」

 里香がギュッと、来世に抱きついた。

 暖かな体温と爽やかな匂いのする……これは香水だろうか? ともかくそれらの情報が里香から感じられた。

(――人の感触。さっきはやばかったがなんとか生き残れたか)

 心にふと湧いた生きた実感が、来世の体中を巡り染み渡った。

「へへ、すいません。無事が嬉しくて抱きついてしまいました」

「あ、ああ。今回はお手柄だ。よくやった」

 ポンポン、と里香の頭を叩き、来世はスマホを取り出した。

「……今日はもう遅い。堀のところには、明日行くとしよう。里香、荷物を回収しに行くぞ。フフ、それにしても、どうなるかな?」

「うわ!」

「わあ、怖い」

 里香と幸子が、そっと来世から離れる。

「どうした? なぜ離れる」

彼は知る由はないが、来世の顔には、悪鬼のような笑みが広がっていた。

里香と幸子は顔を見合わせ、クスクスと笑う。

 雲一つない夜空には、満天の月が彼らを見下ろしていた。

 来世は空を見上げ、やれやれと首をさすった。

 ※

 まだ太陽が昇っておらず、人通りもまばらな中、自転車をこいで掘 茂は白髪が混じりだした頭を風に撫でつけながら出勤する。

 今年四十一歳。忙しい業務の中、唯一健康維持に努められるのは、自転車通勤のこの時間だけだ。

 彼は駐輪場に自転車を停めた。鍵は備え付けの鍵を閉めるのみ。どうせ安物のママチャリだ。盗まれたところでどうでもいい。

 ポケットからハンカチを取り出し、軽く汗をぬぐう。

 今日は、昼頃から営業の手伝いをしなければならない。社長とはいえ、零細企業のトップでしかないのだ。限られた人数の中、業務を回すためには、社長も現場で動かなくてはならない。

 営業部門は、岩崎が生死を彷徨う病気によって入院することが決まり、大忙しだ。……たまに、そういう者がこの会社では現れる。ま、仕方ない。

「ああ、今日も忙しそうだ。ん?」

 会社の入り口に誰かが立っている。黒のモッズコートと青いジーンズ、茶色の革靴という出で立ち。

(ほー、手足が長い。メンズ雑誌のモデルみたいだ)

 暗いこともあって初めは誰だか分からなかった。しかし、顔を見た瞬間、ああ、という気持ちとどうして? という驚きが心に渦巻いた。

 キツイ射抜くような目で堀を睨むように眺めている男は、この前会社に来た男だ。

「刑事さん。こんな時間にどうなさいました?」

「やあ、堀さん。内密に少々話したいことがあります。十分ほどお時間をいただけませんか?」

 男は手を挙げて、堀を出迎えた。


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