ケース2 死神の足音㉜
「うん、聞きたい。予想でも良いから教えて。私、何も分からないの。勝手に神にされて、……黒い悪意に操られているだけ」
やはり、と来世は目を細めた。
「わかった。では、まず浜 勝平について話そう。彼は君と別れを告げた後、劇的な変化を遂げた。具体的には、邪破教を信じるようになった」
里香が避難がましい視線を投げかけた。手で落ち着け、という意図を来世は伝える。
「そう考えると、辻褄が合う。ほとぼりが冷めたとはいえ、危険を冒してまで帰ってきたのはなぜだ? これに関しては、浜 幸子。君を妹のように可愛がっていたから、で説明がつく。君の墓を建てたかった、君との思い出に浸りたかったなどが妥当だろう。
だが、なぜそのままこの街に居座るばかりか、会社を設立したのか? これについては深く考える必要がある。浜 勝平は、会社を設立する際、わざわざ古い建物を購入した。さらに、その建物の三階を大幅にリフォームした。……外壁を綺麗にしたり、設備を新調したりするのは分かるんだがな、奇妙なことに彼は廊下を重点的にリフォームしろと業者に依頼したらしい。そう、あの曲がりくねった機能性皆無の廊下だ。これについては、設立当初からいる社員が証言したので間違いない。
奇妙。あまりに奇妙だ。しかしだ、考えてみろ。浜 幸子にもう一度会うために、そのようなリフォームをした、と仮定すればすんなりと理解できる。
浜 幸子は幸ノ神となった。ならば、邪破教の教えに従い、神と出会うための儀式を行えば再会できる、と彼は考えたかもしれない。……なあ、浜 幸子。邪破教では、神と対面するには、不浄な場所が必須ではないのか?」
「ええ、必要よ。不浄な場所の穢れによって、神聖な存在である神を呼ぶ。神は穢れを嘆き、穢れによって悪をなす者を滅ぼす。――ああ、そうか。古い建物と掃除の行き届いていないトイレは、不浄なものが溜まりやすい。合理的かもね」
「やはりな。……うん、浜 勝平は、トイレと廊下を幸ノ神召喚の装置として機能させようとした。だが、ここで誤算が生じる。神を呼び寄せるほどの穢れとは、彼が思う以上に膨大な量が必要だった。
とても彼一人で用意できるものではなかったのだろう。もし、彼が穢れを十二分に用意できるのであれば、とっくに君は再会を果たしているはずだから。……じゃあ、どうやって穢れを増やすのか? そこで彼は一計を案じた」
来世の頭に、岩崎の会社で行った事情聴取の様子が思い出された。
その時感じたのだ。心が冷えていくような恐ろしさを……。
「浜 勝平は、社員の一部にある噂を流した。殺したいほど憎いやつはいないか? ならば、呪いの品にありったけの悪意を込めて、社内の三階トイレに置いてくれば良い。神が天罰を与えてくれる、と。
彼が流した噂なのかはわからない。だが、その噂が実在するのは本当だ。実際、噂は昔からあり、現在まで一部の社員に語り継がれていた。奴らは語ってくれたよ。しょうもない噂だと思ったけど、むかついてうっかり呪いの品をトイレに置いてきたってな」




