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ケース2 死神の足音㉙

 ギィ、と来世が座るパイプ椅子が鳴る。

「俺なりに考えてみた。君の過去に何が起こったのかを。だが、俺の口から話すよりも、俺は君の口から直接聞きたい。――そう、浜一家殺人事件の真相について」

 ――しばし、無音が訪れる。

 浜 幸子は顔を伏せたまま、微動だにしなかった。だが、ギュッと唇を引き結び、顔を上げる。

「分かった。知りたいっていうなら話す。……あの事件は、私にとって長年の苦しみから解放された瞬間でもあり、悲しいけどちょっとだけ嬉しいものでもあった」

「嬉しいって、自分が殺された事件なのに」

 自分ごとのように顔を歪めた里香に、浜 幸子は大人びていて優しい微笑みを投げかけた。

「うん、そうなんだけどね。事情があるのよ。……私の住んでいた村、夕日村では邪破教が信じられていた。邪破教は、悪を持って悪を打ち滅ぼす、そんな考え方の宗教だからか、村の子供たちは大人たちからずっと、ずっと虐待を受けていた」

 浜 幸子は、手に持った手毬を胸に抱く。遠い過去の記憶をたどる彼女の顔は、ひどく無表情だった。

「私には年の離れた従妹のお兄さんがいた。勝平兄ちゃんって呼んで、まるで本当のお兄さんみたいだった。……でね、私たち二人は邪破教を信じていなかった。だって、子供を虐待して、それで幸せを招くのが正しい、って思える宗教なんて信じる価値ないじゃない。

 でも、大人たちにとってはそうじゃなくて。いつも二人で言っていた、「大人になったらここを出て真っ当な人生を送るんだ」ってね。……上手くは、いかなかったけど」

 無色透明だった浜 幸子の表情に、暗い色が混じっていく。

「雨が……そう雨が降った日だった。明日はきっと泳げるくらい水たまりができるんじゃないかって、思っちゃうほどの大雨。ちょっと楽しみにしてた。でも、私には明日が来なかった。

 村では、神様を誕生させることが流行っていたわ。記録が残っているなら調べてみると良い。数年おきに事故や通り魔に見せかけた殺人事件が起きてる。あれは子供を神にしたい大人たちがやったことなの。神となる予定の子供は十人。私は最後の神だった」

「最後の……。どういう基準で贄を選んだんだ?」

「さあ。私は子供だったし、しょうもない理由でしょうから、知りたくもないわ。……ともかく、あの日、お父様とお母様は私を呼び出し言った。「お前を神にする時が来た。苦しいかもしれないが、喜べ。人を超えた存在になるには仕方ないから」って。それで、ふ」

 少女の瞳から透明な雫がこぼれた。

 彼女には未来があった。可能性があった。だが、何も選べず人としてわずかに生きただけで……。

 当人しか分からない悲しみ。けれども、イメージをするだけで、脳裏には胸を焦がす悲しみが広がる。里香はたまらず、浜 幸子に駆け寄り強く抱きしめた。

「ありがとう、暖かいわ。慰めてもらったからには、頑張らないとね。……私は、あの人たちに殴られた。痛くて、怖くて、叫んだけど誰も助けに来なくて。そのうち、痛くもなくなって、揺れた視界に笑った顔の両親が映った」


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