ケース2 死神の足音㉘
「転ぶぞ? ……呪いの蓄積。単一ではなく、複数の力を束ねた呪い。呪術的に密封された場所で凝縮されたそれは、トイレを利用した者に憑く。どの程度の濃度で汚染するのかは、純粋に滞在時間で決まる。俺が岩崎よりも優先して狙われたのは、俺に憑いた呪力の量が多いからだな?」
確認するような来世の視線に、少女は頷く。
「正解よ。でも、あの場所の仕掛けはそれだけじゃないわ」
「ああ、それについても崎森から聞いている。キーとなる仕掛けは、あと二つ。――それは曲がりくねった廊下と黒い鈴だ」
ポン、と里香が手を叩く。奇妙な廊下があったと彼が言っていたのを思い出したのだ。
「やっぱり、その廊下に秘密があったんですね。私は気付いてましたよ、話を聞いた時から」
「嘘つけ。……あの廊下は、簡易的な反閇と呼べるものだ。邪破教は、どうも陰陽道の影響も受けているようだな。
反閇は、陰陽道に登場する歩行呪術のこと。特別な順序で歩くことにより、効力を発揮するものだ。災難を避けるために用いられることもあったようだが、今回のケースでは悪用されている。
仕組みとしてはこうだ。呪力を宿した人間が、トイレから出てあの曲がりくねった廊下を歩む。すると、本人は意図せず反閇をしたことになる。……効力は、神による天罰。つまり、幸ノ神による対象者の殺害」
浜 幸子は眉根を寄せ、深く俯いた。
「あの来世さん、どうして幸子ちゃんだけが死神の真似事をしてるんですか? 邪破教は様々な神様がいるんでしょう」
「……ああ、確かにそれは妙だが、ある程度理由には察しがつく。まあ、それについては後で話そう。ともかく岩崎は災難だったわけだ。普段誰も寄り付かない三階は、資料室がある都合上、たまに営業職の者が利用する。大方、岩崎は業務に使う資料を取りに三階へ行き、トイレを利用した。結果、呪われてしまい、死の宣告を受けることになったというところか」
来世は岩崎に視線を一瞬だけ移し、再び少女に向き合った。
「最後の仕掛け、それは黒い鈴だ。あの場にあった呪いの品々の核ともいえる物。君が再三にわたって伝え続けていた鈴だよ」
「ええ、そう黒い鈴。……私は、あの鈴が嫌い。だって、あの鈴が鳴った時、私は対象者の命を散らさないといけない。けど……けど、岩崎さんは運が良かった。お守りか何かを持ってるんでしょう? おかげで死なずに済んだ」
それだけ言うと、少女は良かった、とつぶやいた。
わずかに来世は目を細めたが、構わず続きを話しだす。
「鈴は元来、縁起の良い物だ。鈴の音は、魔除けの意味合いもある。――だが、あの黒い鈴は、全く真逆の意味を持つ。言うならば……そうだな、不幸を呼び寄せる音色。邪破教においてあの鈴は、神が相手を処す際に鳴るとされている」
さて、と来世は首をさすった。
「なぜ、そんなものがあの会社の三階にあったのか? そもそもなぜ廃れたはずの邪破教式の呪いが横行しているのか? それについて語るには、恐らくだが浜 幸子。君の過去を解き明かす必要があると俺は考えている」




