ケース2 死神の足音⑭
――畜生、畜生。
トイレにこもって自分は何をしている? 明日、僕は生き残れるのか?
「うぷ」
酸っぱい感触が喉の奥から口内へと伝わる。……はあ、吐かずに済んだか。
まったく、ついてない。本当についてない。僕の人生は灰色だ。生まれてこの方女性と付き合ったことはなく、三流大学を卒業後は、三流企業に就職。やっすい給料で、でも友達も大していないからお金は溜まる一方だ。
それで今度は、怨霊に殺されるなんて、最低な分野では話題性ナンバーワンだよ、まったく。
「くっそ、それに来世ってやつはどうも」
信用できない。大金を払えという割には、道具を用意したり、調べ物をしたりするだけで、一向に霊媒師とやらを呼ばない。
「は!」
ドロリとした汗が額から流れた。
……詐欺師なのか? そう、かもしれない。そもそもあの幽霊とグルなんじゃないか。
例えば、そう、幽霊に見せかけるマジックをして、僕を追い詰め、金を巻き上げる。……ああ、そうだ、そうに違いない。だって、幽霊なんているわけがない。馬鹿らしい。
僕はどうかしていた。……ここにはいられない。でも、どうする? あいつは、事務所内にいるだろうし、トイレから出た瞬間見つかる。上手く、外に出ようにも付いてくるかもしれない。
僕は立ち上がって、トイレの中を見渡す。
うーん、といってもトイレットペーパーくらいしか、あ!
このトイレの窓、人がどうにか通れる大きさだ。
ああ、神様。初めてあなたの存在を信じて良い気分になれたよ。
すりガラスになっていて外の景色があんまり見えないけど、たぶん建物の側面に出られる。
「よーし」
はは、スパイみたいだ。不謹慎だけど、ドキドキして、久々に愉快な気持ちだ。
僕は便座を足場にして、ドキドキに突き動かされるがまま、窓ガラスを蹴りまくった。




