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ケース1 女子高校生失踪事件⑮

 女は、ローブの裾を破き、台所へと駆け込む。

 引き出しを開け、ふきんやスプーンを投げ捨て、震える手で包丁を手に取る。

「はあ、はあ、殺してやる。あ、あんな男なんかに」

 LED照明の光は、台所にいる者や物を等しく明るく照らす。だが、女の顔は光を浴びてなお、翳りを帯びていた。

「ああ!」

 テーブルを蹴り飛ばし、右手にあった食器棚を拳で殴った。ヒビの入った食器棚のガラスに、女の顔が映る。

「フフ!」

 女は、食器棚のガラスを見て笑う。自身の顔が嫌いだ。目は豆粒のように小さく、鼻は豚の鼻にそっくりで、唇はタラコのように分厚い。

 容姿が何だというのだろう。人間の価値はそんなもので決まらない、と誰かが言った。

 だが、そんな言葉は、空気に溶けゆく紫煙と何が違うのだろうか。

「あんたなんかと結婚する男なんていないわ」

「占い師になったんだって? あんたに恋愛について占ってもらってもねえ」

 腹の底から、毒沼のような毒々しくヌメリのある感覚が身を焦がす。

(私は変わったのよ。私には洗脳の才能がある。どんなに若く美しい女も、私が命じれば、汚い男に身をゆだねる。ざまあみろ、お似合いだ。そうだ、お似合い。私は悪くない)

 おかしいとすれば、世の中だ。正しいのは自分だと、女は信じて疑わなかった。

 これまでも、勝ち組で生きる。そう、いつだって。

「そんな物を手に取って、どうにかなるとでも?」

 男が台所に姿を現す。

 青い瞳を宿す不気味な男。まるで死神みたいだ、と女は引きつった笑みで男を出迎える。

 ――大丈夫、大丈夫。こいつを殺せば、それで上手くいく。そうとも。

 女は何度もそう呟き、包丁を男へ、ユラリと向けた。

 ※

 来世は、肺に溜まった空気を引き絞るように吐き、懐からサバイバルナイフを引き抜いた。

 視線を女から外さずに、それとなく周囲の情報を確認する。

 台所は、六畳ほどの広さだが、食卓テーブルと棚、冷蔵庫がある分、手狭だ。

 同じ場所にいる以上、条件は五分。問題は、互いの戦闘能力だった。

(……この女、恐ろしくできる。まったく、割に合わん依頼だよ)

 来世は鼻を鳴らし、――静かに肉薄した。

 甲高い音と火花が宙を彩る。

 刃と刃が複雑な軌道を描き、命の奪い合いに興じる。――否、女の顔に笑みがこぼれた。

「あんた、私を生かして捕らえる気かい」

「……あいにく、殺しはしないんでね」

「アハハ、お優しいこと。全くもって、好都合だよ」

 来世の突きを女は包丁で逸らし、彼の脇腹に掌底を叩きこんだ。

 女の手に、重々しい手ごたえと共に、濡れた感触が伝わった。

「ゲホ、あ」

「やっぱり、さっき外で男どもに殴られた時、そこのあたりをこっぴどく怪我したんでしょう? 動きを庇っているのがバレバレ」

「……そうかい、狙い通りで嬉しいね」

 来世は女の手首を掴み、捻る。ゴキリ、と鈍い音が鳴り、女の絶叫が響き渡る。

 だが、それでも来世は攻撃の手を緩めない。

 ナイフを投げ捨て、女の首を腕で締め上げた。

「おごああ、は、は、せ」

「そうは、いかん」


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