99話 協力
予想もしない言葉に、ドレイクは思わず聞き返した。
「は…? 協力だと?」
「お前はフランツを入れるためにはソフィアや兄が政府によって虐げられる必要があると考えているが、だからと言ってそれでフランツがアルデバランに入るとなぜ言える?少なくともそんなことは俺が阻止する。お前の策略をバラして、フランツに何を吹き込んででもな。」
ドレイクは睨むようにアレクの目を見た。アレクはそれを見返して続けた。
「フランツをアルデバランに入れるための一番効果的な方法は、ソフィアの兄と話をさせることだ。フランツはこれまでソフィアから兄のことを散々聞いてきたし、一度面会して直接会話したときのソフィアに対する深い愛情や自分への厚意を十分感じている。それに彼のした行動が本質的に間違ったものではないことも理解している。フランツの心を動かせるとしたらソフィアの兄だけだ。」
「…なるほどな。で、そのためにフランツを秘密警察に連れて行けと。」
「俺が連れて行くからそれが可能なようにアルデバランでも政府軍側でも何でも使って手配してくれ。フランツがあまりに無茶な行動を取らないように俺が監視する。それが実現できれば、俺はフランツに対して惑わすようなことを吹聴したりは一切しないと約束する。」
ドレイクは2本目のタバコを灰皿に押し付けた。少しの間黙ってから、ゆっくりと口を開いた。
「…少し待て。すぐには体制が整わない。」
それだけ言うとドレイクは席を立った。
「待て!待つのはいいが、その間にソフィアに一切危害が加えられないことを約束しろ。」
ドレイクは再びアレクを見た。アレクの目は静かな力強さを秘めていた。
「…いいだろう。約束する。」
観念したようにはっきりと答えてから、ドレイクはふっと笑った。
「お前には完敗だ。まんまと思う通りに動かされたな。…なるほど見事な手腕だ。」
アレクは黙っていたが、ドレイクは笑みを消してから続けた。
「俺ができるのはお前たちが秘密警察本部に行けるよう手配することと、それまでのソフィアの安全を約束することだけだ。そこから先は何も保証できない。ブラウン中将がどういう判断をするかも分からないぞ。それは分かってるな?」
「ああ、覚悟の上だ。その二つさえ実行してくれればいい。」
「わかった。今後は俺との接触は無いと思え。連絡は本部を通じてになる。」
アレクが頷くと、ドレイクは最後に告げた。
「アレクサンダー・ベル、ルアンの言葉をよく聞け。俺はあいつのことを心から尊敬してる。…じゃあな。間違っても死ぬなよ。」
そしてドレイクは扉の向こうに消えた。アレクは重要な仕事を終えた後のようにどっと疲れを感じた。
「…まったく、はったりが上手くなったもんだ。」
一人になった部屋でつぶやきながら、アレクはポケットから自分のタバコを取り出して火をつけた。
フランツをコントロールすることなど元々不可能だ。あいつは周りが何を言ったって、一度決めたことを曲げない。もしあいつがアルデバランに入ると決めたなら、自分が何を吹き込んだとしても無駄なことは分かっている。フランツが無茶な行動を取らないように監視することも、完全にできるなど思ってない。今日だってそのせいで軟禁状態になった。まぁ、下手なことをしないように無理矢理にでも閉じ込めておこうというエルンスト大佐の考えはよく理解できる。そうでもしないとあいつは何をするかわからない。
ドレイクに言ったことはまるで逆だ。俺はずっとフランツの背中を見て必死で追いかけてきた。あいつがどういう決断をしても、自分はそれを支えると決めている。
普段は滅多に吸わないタバコを吸い終わると、アレクは再び頭を動かして二人を救う方法を考え続けた。




