98話 駆引き
ドレイクの答えにアレクは困惑した。
「フランツと俺を…?何で俺たちなんだ。」
「簡単だろ。フランツみたいな奴は千人に一人もいない。軍に入ってから五年、戦況の問題で出撃の機会はそこまで多く無かったはずなのに、すでに撃墜数は200を超えてダントツのトップだ。おまけに統率力と扇動力もある。リーダーとしての素質に十分な実力が備わっていて、アトリア出身。上流階級の出というのは組織に入る動機に欠けるが、ソフィアとの強い繋がりがある。フランツには組織に入れるべき条件が揃いすぎてる。」
アレクはドレイクが言うことはどれももっともだと思った。アルデバランにとってフランツという人材は確かに貴重だろう。
「そしてお前だ。航空学校の代表チーム時代からお前の設計は有名だった。アルデバランは軍事力強化のため組織拡大によって得た資金を戦闘機を始めとする武器の購入に費やしているが、いずれ戦争になればそれらを再開発して敵より性能の良い機体を戦場に送り出すことができなければ確実に負ける。そのことは過去の戦争が証明しているだろう。お前ほど実績があって若く優秀な設計士は他で聞いたことがない。人材としてはある意味パイロットより貴重だ。」
「お前の目的はそれだけか?」
「そうだ。」
「ブラウン中将は何をしようとしてる?」
「知らん。俺たちアルデバランのメンバーは、理念と目的が一致している意外は基本的に個々で活動している。本部からの情報を得ることはできるが、別々の場所で活動しているメンバー個人と直接連絡を取ることは通常ない。メンバー間で無闇に連絡を取り合って足が付くのを避けるためだ。」
「ソフィアの兄はアルデバランの幹部だな?」
「…ああ。」
「ブラウン中将がソフィアと兄を両方救うという可能性はあるか?」
「さあな。だが、ルアンを救うのは正直難しいだろう。幹部であることがバレたなら、ブラウン中将といえど一人で釈放まで持っていくには普通に考えて無理がある。ソフィアの方は参考人として呼ばれてるだけだから可能だろうが、あっちでの扱いがどうなるかは分からない。あそこは度を過ぎて凶暴で頭の悪い奴らの集まりだ。」
アレクは顔を曇らせた。ブラウン中将がソフィアをどこまで守るのかも定かではない。
「秘密警察の本部はどこにある。」
「ダメもとで聞くなよ。教える訳ない。お前達が捕まれば俺の目的が達成されないからな。」
「じゃあ俺がアルデバランに入ると言ったら?」
「だめだ。俺たちは必要な人材を勧誘はするが、入るには本人の強い意思があることが条件になる。アルデバランの理念に賛同し、命を賭ける覚悟のある者しか入ることは許されない。今組織に居る者は誘いを受けたとしてもその後自ら足を踏み入れる選択をした者だけだ。」
アレクは一瞬黙ったが、すぐに口を開いた。
「お前は…ソフィアとソフィアの兄を犠牲にする気か…?」
「人聞きの悪いことを言うな…。ルアンを救うのが難しいことはさっき言った通りだ。ソフィアについては俺はどうなるかわからない。」
「少なくともソフィアを守る方法はあるだろう。お前の仲間である政府側の人間や、何人居るか知らないがブラウン中将らアルデバランのメンバーに連絡を入れて取り計れば良い。」
ドレイクはそれには答えなかった。アレクの方を見ずに短くなった二本目のタバコを吹かした。
「ソフィアは組織と関係ない。フランツやお前のように組織に勧誘する目的もないし、全くの無関係者だ。守る理由がない。」
「ソフィアは幹部の妹だろう!?全く関係ないなど言えない。」
「家族なんて関係ない。アルデバランは共通の理念を持った個人同士の繋がりだ。メンバーは全員覚悟を持って組織に入っていると言っただろ。自分の家族や近親者に危害が加わる可能性も考えた上で、それでも自分が為すべきことを果たすと決めている。」
「いや…お前は自分の目的を果たすためにソフィアを犠牲にしようとしている。フランツがアルデバランに入る強い動機を得るためには、政府側に対する憎しみを植え付けないとー」
「それ以上言うな。もしそうなったとしてもそれは偶然であって、決して俺や組織がそうなるように仕向けた訳じゃない。その上で言うが、俺たちは理想だけを掲げるお気楽な組織じゃない。変革に犠牲を伴うことは、これまでの組織の歴史から十分理解している。」
アレクはすぐに反論しようとしたが、感情的になっている自分に気づいて言葉を飲み込んだ。自分の目的を果たすために何が必要かを改めて冷静に整理してから、ドレイクの目を見てゆっくりと口を開いた。
「…わかった。俺はお前に協力しよう。」




