95話 後悔
「秘密警察は政府軍の指揮下にある。俺が今開発してる新型戦闘機は政府軍の航空部隊にも採用される予定だから、政府軍関係者との接触は図れる。そこから秘密警察の情報を探る。」
フランツの家に着くなり、アレクはフランツに対して自らの考えを話した。だがフランツはそれに答えず黙ってリビングへと向かった。リビングの扉を開けた瞬間、ソフィアが待っているような気がして胸が詰まった。
「…アレク…、ソフィアは誰の参考人として連れて行かれたと思う。」
「それは…やはりソフィアの兄だろう。お前が予測したよりもはるかに大きい組織に関与していたのかも知れないな。それが発覚して秘密警察に移送され、ソフィアが参考人として呼ばれた…と考えるのが自然だ。」
「ソフィアの兄が加担していたのは…恐らくアルデバランだ。アトリアにある反政府組織の中では穏健派の最大組織だ。他にも大きい組織はあるがそれらはどれも過激派で、主に貧困街でテロや暴動を引き起こしている。ソフィアの話や俺が直接話した感覚では、ルアンさんが過激派組織に属していたというのは考えにくい。これは俺の予想だが、ルアンさんはアルデバランの幹部だったんじゃないかと思う。でなければ今さら秘密警察が動くのも不自然だ。」
「それは…お前が諜報部から得た情報か?」
「諜報部から得たのはアトリアにある反政府組織の実情だ。アルデバランはホルシード王国がラスキアに併合されてアトリアと名を変えた直後から存在していた組織の一つで、これまで治安維持部隊や秘密警察が何度も捜査や摘発を繰り返してきたが、アトリア全土に散らばっている構成員全てを洗い出すことは難しく、他の大きな過激派組織同様に現在まで存続してきた。その中でアルデバランは数年前から急激に組織を大きくしていたらしい。その過程ですでに何十人も逮捕されているらしいが、幹部が捕まったという話は聞いていない。もしルアンさんが幹部だったとしたら、治安維持部隊から秘密警察に移送されるのは必死だ。」
「もしそうだとしたら…秘密警察は何としても口を割らせようとするだろうな…。」
アレクは言いながら胸を痛めた。ソフィアの兄は秘密警察による拷問を受けている可能性がある。
「だとしたらソフィアは…ルアンさんの口を割らせるための道具にされるかもしれない。もしソフィアに何かあったら俺は−」
「落ち着けよ!まだそうと決まったわけじゃない。これはあくまでも仮説だ。それに、ブラウン中将はソフィアの身の安全を保証すると言っただろ?もちろん中将がどんな人物なのかは分からないが、任務を妨害したお前を拘禁しようとした部下を諌めたところから考えると、秘密警察の中でもある程度の良識のある人物であることは推測できる。」
「秘密警察で良識があるだって?あの組織の残虐な行いはこの国の全ての人たちが知っている!そんな組織にいる奴の言葉なんて信じらるか!」
「だから、それは俺が確かめる。政府軍関係者であれば少なくとも同組織の中将である人物のことは知っているだろう。あとは、場所だな。秘密警察の本拠地は公開されていないが、ソフィアと兄がどこに居るかが分からなければどうにもならない。」
フランツは下を向いて黙った。アレクはそんなフランツを見て言った。
「フランツ、こんなときに酷かも知れないが…、お前は明日からいつも通り任務に就くんだ。ソフィアが居なくなったことは、恐らく何かしら誤魔化されて本当のことは伝えられないだろう。他の隊員からの反発がある可能性があるからだ。そしてお前は確実にマークされている…少なくともソフィアが帰ってくるまでは。下手な動きをしたら即密告されるぞ。」
アレクの言葉を聞いても、フランツは黙って俯いたまま側にあったソファに座った。
「…フランツ…、ソフィアを救えるのはお前だけだ。」
アレクが静かに声を掛けると、ようやくフランツは口を開いた。
「…わかってる。下手に動けばそれもできなくなるって言いたいんだろ。通常通り任務に就くよ。お前に負担を掛けてすまないが…」
「負担なんて思うわけない!ソフィアを救いたい気持ちは同じだって、お前なら分かるだろ。俺にとってお前たちは家族と同じだ。」
フランツはゆっくりとアレクを見上げ、わずかに微笑んだ。
「バカ…無理して笑うなよ。ソフィアはきっと無事だ。希望を捨てるなよ。」
「…そうだな。」
自分の方を見ずに言うフランツにアレクは不安を感じたが、今ここで何を言っても仕方ない。どうか無茶な行動だけはしないようにと祈りながら、アレクは暗い夜道をソフィアがいない基地へと戻って行った。




