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群青、君が見た空の軌跡  作者: 乃上 白
第一章
90/190

90話 ドルティーナ

 三ヶ月後、二人は共にラスキア本土南方にあるドルティーナ基地に異動した。もともといた北西のパトラバル基地での戦いが少し落ち着いたため、戦力の一部がドルティーナに集められていた。すると、そこでアレクと一緒になった。


 ドルティーナはラスキア随一の工業都市であり、空軍の武器製造の拠点である航空技術局の軍用機開発研究所が基地の敷地内に併設されていた。

 航空設計士として軍に入ったアレクは、入隊当初からこの基地に所属して戦闘機を研究開発する任務に従事していた。


「フランツ!よく来たな。」

「アレク!!久しぶりだな!一年前にラスキアードで会った以来か?」

「そうだな。フランツの噂は散々聞いてたからあまり久しぶりな気もしないが…本当に凄い活躍だな!中尉に昇格したんだ、何か奢れよ。」

 アレクはフランツがこの基地にやって来ると聞いて、早速パトラバルからの機体が到着する予定の格納庫まで探しに来ていた。お互い親友との久しぶりの再会を心から喜んだ。


 すると、後ろからフランツを呼ぶ声が聞こえた。フランツはすぐに振り返って声の相手をこちらに呼んだ。その親しげな様子に誰かと思ってよく見ると、アレクは驚いた。

「ソフィア・セレーナ!?ハインリヒ社の…!そうか、一緒の基地だったんだな。」

「ああ。ソフィア、俺の親友のアレクだ。覚えてるか?俺のチームクルーの一人で機体の設計を担当してた。」

「もちろん覚えてるわ!有名だったもの。設計士のアレクサンダー・ベルね。ハインリヒ社の設計主任をしてた私のチームクルーがあなたを熱心にスカウトしたけど、あっさり断られたって言ってたわ。」

 ソフィアはにっこりと笑った。相変わらずの美人だったが、以前に比べてより雰囲気が明るくなったような印象を受けた。柔らかく笑う二人の様子を見て、アレクはなんとなく二人の関係を悟った。

「…三人が揃うなんて、まるで二年前に戻ったみたいだな。今日は再会を祝して飲みに行こう。二人ともドルティーナは初めてだろ?俺が案内するよ。」

 アレクの提案に二人は喜んで同意した。その日の夜、三人は遅くまで積もる話に花を咲かせた。それは本当に楽しい夜だった。


 アレクはドルティーナで再会するまでほとんどソフィアと話したことは無かった。だが実際に話をしてみると、自分の意見をはっきり言いつつも相手の気持ちを察して自然に気を遣えるその柔らかさにとても好感を持った。フランツはそんなソフィアを眩しそうに見ていた。

 子供の頃からいつも真っ直ぐで何に対しても物怖じしないフランツは、その真っ直ぐさ故に時には周りとぶつかることもあったが、ソフィアが隣にいるようになってからは少し雰囲気が柔らかく、考え方もより柔軟になったように感じた。

 一方ソフィアはアレクに対して落ち着いた思慮深さと知識の深さを感じ取った。フランツの親友としてだけでなく、人として深く信頼のおける人物だということを理解した。そうした三人のバランスはとてもうまくいった。

 その後三人は任務外の時間をしょっ中一緒に過ごした。戦場と隣り合わせの任務に就きながらも、二十歳前後の瑞々しい時間をお互いに共有した三人は、まるで家族のように一緒にいるのが普通になった。


 ソフィアは兄と手紙のやり取りが出来るようになってから、みるみる明るくなっていった。フランツはソフィアがレースに登場した頃の明るく朗らかなイメージを思い出して、兄が逮捕される前のソフィアに戻りつつあることを嬉しく思っていた。

 ルアンからの返事はいつもすぐには届かなかったが、それでも一ヶ月に一度程のペースでは確実に届けられた。手紙の内容はいつもの兄の口調そのままで、明るく優しくて冗談さえ書かれてあった。

 ソフィアはそれを見ていつも胸をなでおろした。釈放がいつになるかはまだ分からなかったが、フランツが言ったように希望はあるし、兄が元気でいることが確認できるだけでもソフィアの心は勇気づけられた。


 ドルティーナでの日々はそうして眩しく穏やかに過ぎて行った。

 戦況の方はパトラバルから続いていたラスキア本土北西国境の先にあるバルガとの民族紛争は休戦協定が成立し、ラスキアと他国との直接的な戦争はこれにて一時的に治まった。

 ドルティーナでは当時友好国であったベルスタードとの安全保障条約に基づく軍事支援という形で、ベルスタードと陸続きの隣国サラヴァトアウレスクとの戦争に介入していた。もちろん自軍の身を切るだけの目的は条約の他にもある。戦争に勝利した暁にはベルスタードから多額の謝礼金と新たに得た領土の一部をもらい受けるという密約があった。


 そのためラスキア軍としてはある程度の存在感を放ちつつ連合軍を勝利に導くことが絶対条件だった。あくまで支援という形であるためパトラバルに比べれば出撃回数は減ったが、出撃する際には確実な戦果を得られるだけの高い撃墜確率が求められた。その理由の一つには戦闘可能時間の短さもあった。


 戦場はラスキア本土からバーデ海を挟んだベルグラード大陸北部のベルスタードとサラヴァトアウレスクとの国境付近で、ドルティーナからは片道600km近くあった。

 当時のラスキア軍主力戦闘機の航続距離は1,400kmだったため、片道一時間半ほどかけてようやく戦場に到着しても、戦闘にかけられる時間はわずか15分ほどしかなかった。そのため、パイロットには短時間で確実に敵を仕留める攻撃技術と、無事帰投できるだけの長距離飛行を可能にする体力と操縦技術が求められた。


 それらを備えたパイロットが選りすぐられる中で、フランツはその能力を大いに発揮した。短い戦闘時間の中でも毎回確実に戦果を上げ、パトラバルに続きドルティーナでも広く名前が知られるようになった。


 戦場はその後近隣の島々などへと移って行ったが、フランツの活躍は変わることなく、現役空軍パイロットの中で撃墜数において年間一位を二度獲得した。

 断トツの一位となった2年目には勲章を授与され、階級も少佐へと昇格した。それはドルティーナに異動してから3年後、フランツが23歳のときだった。

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