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群青、君が見た空の軌跡  作者: 乃上 白
第一章
87/190

87話 清流

「そのときソフィアは見事三位に入賞した。フランツは一位でゴールして、俺たちは三年連続の優勝を飾った。」

 そこまで話すとアレクはふいにベンチから立ち上がった。ハンスとルカはおもむろに立ち上がったアレクを見た。


「…少し、散歩するか。」

 ひとり言のように静かにつぶやくと、アレクは歩き出した。二人は黙ってその後をついて行った。

「どこに行くの?」

 森の中に差し掛かったとき、ルカがアレクに尋ねた。

「そうだな…前にルカがカワセミを見たという小川まで行ってみるか。」


 ハンスは父が母に語った言葉について考えていた。”誰であったって人が自由に生きる権利を奪うことは出来ない”−。それはその後の父の行動の根本にある信念のように感じられた。

「…父さんと母さんは、半年後にあったパイロット試験に合格して約束通り軍に入ったんだね。」

「ああ、そうだ。フランツはその成績からして受験資格があって当然だが、ソフィアはチャンピオンシップの成績に加えてその後の大会でも連続で上位入賞することで、短い期間でも見事に受験資格を勝ち取ったんだ。兄を救いたいという強い思いがそうさせたんだろうな。」


 森の中は静かだった。木々の屋根の隙間から降り注ぐ木漏れ日が心地よかった。

「アレクも予定通り半年遅れて軍に入ったの?」

 一番後ろを歩いていたルカが先頭のアレクに声を掛けた。

「ああ。俺は航空機の設計士として軍に入った。二人に半年遅れて、航空学校を卒業してからな。ただ空軍パイロットは軍に入ってから半年は訓練生としての勤務になる。だから正式な兵士としてのスタートは同じだった。ソフィアの兄を救うという目的も、訓練生の間には何も出来ない。まだ何の権限も無くて軍の外にいるのとそう変わらないからな。だから二人が本格的に動き出したのは俺も軍に入った直後からだった。ただ、俺は二人がそんなことを考えているなんて少しも知らなかった。」


 少し歩くとかすかに水が流れる音が聞こえてきた。空気も少しだけ冷んやりしたように感じられる。

「…二人はどうやって母さんの兄を救い出したの?」

 ハンスの問いに、アレクはすぐには答えなかった。

 水の音が近づいて木々の隙間から川の様子が確認できた。我慢できなかったのか、ルカがさっと川の方へ走って行った。アレクは気をつけろよ、と言いながら、自身も森から少し開けた河岸へと足を踏み出した。

 ハンスがその隣に出ると、アレクは静かに答えた。


「二人は最終的にルアンを救うことができなかった。ソフィアの兄ルアンは、数年後に獄中で自らの命を絶った。」

 ハンスはハッとしてアレクを見た。アレクはさらさらと流れる川の音に耳を傾け、その様子を眺めていた。

「どうして…!? …軍に殺されたのでもなく、自ら命を絶ったの?」

「そうだ。そうすることで彼は最期まで自分の役割と信念を貫いた。」

 表情は変わっていなかったが、どこかどうしようもない悲しみのようなものが、アレクの横顔から溢れ出しているような気がした。

「どういうこと…?」

 つぶやくように訊いてから、ハンスはアレクと同じように、目の前の止めどなく溢れる水の流れを見るともなく眺めた。ルカはすぐ手前の河岸にしゃがんで、透明な水の向こうにいる小さな生き物たちを観察しつつ、黙ってアレクの話を聞いていた。

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