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群青、君が見た空の軌跡  作者: 乃上 白
第一章
85/190

85話 父と母

「その後、俺は必死に勉強して何とか奨学生の権利を手に入れ、フランツと一緒に航空学校へ入学することができた。そして二年後、俺たちは約束通り共に代表チーム入りした。フランツはパイロットとしてな。…あいつは凄かったよ。いきなり全学年を含めた最速タイムを出して、歴代でもトップクラスの断トツ一位で代表パイロットに選ばれたんだ。さらにレースでは、初年度にしてチャンピオンシップに出場し、二年目で優勝して初めて総合チャンピオンになった。そしてその翌年にも二年連続の優勝を飾った。…その頃には俺たちは負ける気がしなかったよ。」

「凄い…まるでゾフィーみたいだ。」

 ハンスがつぶやくと、アレクはふっと笑った。

「ゾフィーはフランツの才能を受け継いだな。でも、ハンスはこの前のチャンピオンシップでそんなゾフィーを抜いて優勝した。…俺はラジオで実況を聞いていて、本当に感動したよ…!フランツの子供達があんなに凄いレースを展開するなんてな。」

 アレクはハンスの頭をポンと撫でた。ハンスは少し気恥ずかしいような気がしたけれど、素直に嬉しかった。


「え!?あんた、チャンピオンシップで優勝したの…!?凄いじゃない!!」

 ルカはかなり驚いた様子でハンスを見た。対してハンスはただ柔らかく笑った。

「ハンスがどれだけ努力してきたか、俺にはよく分かる。大切な人を亡くした後も、ただ真っ直ぐ前だけを見て突っ走って来たんだな。仲間を信じて、強靭な精神で周りを引っ張って…まさにフランツがそうだったように。」

「…違うよ…。俺にはそんな力は無いし、自分のことばかりで遥かに周りが見えてなかった。きっと父さんは、アレクとの出会いを通してすでにアトリアの現状と矛盾に気づいてたんじゃないのかな。俺はこの前までそんなこと考えようともしなかった。」

「確かにそれを知るきっかけにはなったかもしれないが、そういう面でフランツに圧倒的な影響を与えたのはソフィアだよ。君の母親だ。」

 母の話が出て、ハンスはアレクの顔を見上げた。


「…父さんと母さんは、どうやって出会ったの?」

「聞いてないか?」

「うん…。父さんは、今思えばあまり母さんのことを詳しくは教えてくれなかった。ただ優しくて、きれいな人だったって…。」

「…そうか。でもそれは本当だ。フランツとソフィアが初めて会ったのは二人とも今の君の一つ上の17歳のときだったが、当時からソフィアはとびきりの美人で、しかも誰にでも優しく相手の気持ちを察する子だった。レースファンの間でも登場するなり大人気だったな。操縦の腕も抜群だったし。」

「操縦…!?母さんもパイロットだったの!?」

「それも知らなかったのか…まぁ、ソフィアがレースに出てたのはたったの一年半程だったからな。でも、成績はかなりのものだ。フランツと同じく一年目でチャンピオンシップに出て、その年にあったパイロット試験に合格して軍に入ったんだ。フランツと共にな。」

「全然知らなかった…。軍でパイロットをしてたことも。母さんが何の仕事をしてたかなんて、小さい頃は考えたことも無かったし。」

「そういうものなのかもしれないな。ソフィアが亡くなったのはハンスが一歳の頃だから、写真でしか記憶に無いだろう。」


 確かにハンスは写真でしか母の顔を知らない。病院のベッドで産まれたばかりのゾフィーを抱いて、隣に自分と父が写っている写真が唯一の家族写真だった。

 母の若い頃の写真はその他にも何枚かはあったが、どれも今のゾフィーにそっくりだった。

「父さんは…わざと母さんのことを俺たちに教えなかったのかな。」

「そうだな。恐らく、ソフィアのことを詳しく知ればアルデバランに繋がる可能性があるからそれを避けたんだろう。俺のことも君達には話していなかったはずだ。」

 ハンスは頷いた。クルトおじさんの話でもアルデバランに関わって欲しく無いとはっきり言われたと言っていたし、父が自分たちを反政府組織に関わらせる可能性のあるものは徹底的に排除しようとしていたんだということがよく分かった。


「フランツとソフィアが出会った最初のきっかけは、俺は大分後にソフィアから聞いたんだ。俺たちが三年目のチャンピオンシップに出たときで、ソフィアは初出場だった。ソフィアはその前年に16歳で初めてハインリヒ社の代表パイロットになっていたんだ。」

 ハンスは母がその時に学生でなかったことにも驚いた。ただ、確かに父と同じ年齢であれば航空学校の代表にはなれないはずだし、航空科のある他の学校の代表チームはいくつかあるが、それらのチームがチャンピオンシップに出たという例はこれまで無い。

 質問したいことは沢山あったが、ハンスはそのままアレクの話を静かに聞くことにした。ルカもいつもは賑やかに言葉が出てくる口を閉じて、風にそよぐ草木と同じようにただ静かに耳を傾けていた。

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