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群青、君が見た空の軌跡  作者: 乃上 白
第一章
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74話 大都会へ

「やっぱり帰る!!あんたを信じた私がバカだった!もうちょっと安全に運転できないの!?とりあえずスピード落としなさいよ!!」

「ルカが勝手について来たんだろ!事故ったりしないから安心しろ。山道で他の車もいないし、多少スピード出しても大丈夫だろ。」

「多少!?あんた感覚おかしいんじゃないの!?これは飛行機じゃないのよ!」

「そんなことわかってるよ!!」

「とにかく一旦止まって!私と替わってよ!あんた本当に運転したことあるの!?」

「もう半分以上は来たし、このまま俺が運転する!怖いなら目でも閉じてろ。…車の運転なんてしたことなくても大体わかる。」

「ふざけないでよ!嘘ついたこと、アレクに言いつけてやるんだから!!」


 ハンスはルカを無視して運転を続けた。アレクに本について聞いた翌日の朝、ハンスはアレクにラスキアードまで行きたいと訴えた。


 ラスキアの首都であるラスキアードは、無論ラスキアの政治と文化の中心地だ。まずはそこに行って自分の足で情報を集めたい。新聞を読んだり最新の本や雑誌を確認するだけでも、情報統制の厳しいアトリアでは手に入らない情報を目にできるかもしれないとハンスは思った。

 アレクは怪我の状態を心配したが、ハンスの方は絶対に無理はしないから、と言ってきかなかった。ハンスを止めることが難しいことはこの数日にしてアレクにもよくわかっていたので、くれぐれも無理はしないということと、必ず明るいうちに帰ってくることを約束させて、ハンスに車の鍵を渡した。


 正直ハンスは車を運転した経験はなかった。アトリアのセントラルはそこまで広くないから普段は車を使う必要は無かったし、家の車で遠くへ移動する時には専属の運転手が運転していたからだ。

 だが、アレクに運転できるか聞かれて咄嗟にできると答えた。ここからラスキアードへ行くには車が無ければ難しいと思ったし、アレクの仕事の邪魔をするのは嫌だった。

 

 森の中の獣道を下ったところにある少しひらけた場所に車は停められていた。周りには木が生い茂っていて、ギリギリ車が通るだけの、舗装されていない細い道が先に続いている。

 ハンスが車のドアを開けた瞬間、突然後ろから声を掛けられた。

「どこに行くの!?もしかしてラスキアード?」

 振り返るとルカがニヤニヤしながら立っていた。

「…なんだよ。気づいてたのか?」

「さっき珍しくあんたが外に出てるのを発見して、こっそり後をつけたのよ。こっちの方に向かってたからもしかしたら車に乗るのかもと思って。」

「勝手につけるなよ。行き先はラスキアードだけど、ルカは連れてかないぞ。」

「人の車借りて偉そうに言うわね!いいわよ、勝手に乗ってるだけだから気にしないで。ところであんた、運転できるの?」

「…できるよ。」

「そう。じゃあお願いね、運転手さん。」


 ハンスが拒否するのを無視して、ルカはさっと助手席に乗り込んだ。車は小型の軍用ジープに似たような形で、後ろは荷台になっていた。

 ハンスは仕方なくそのまま運転席に乗り込んだ。ルカを説得するのは面倒そうだし、明るいうちには帰ってこなければならないので時間が惜しかった。

 アレクによると、ここからラスキアードまでは車で二時間ほどかかるということだった。


 鍵を差し込んで回すとエンジンがかかった。アクセルとブレーキとギアの位置を確認すると、すぐに車を発進させた。

 何だ、簡単だとハンスは思った。右手は補助程度にしか使えないが、ずっと下りの山道でギアをチェンジする必要もそう無さそうだし、左手だけでも十分にハンドルを操作できる。飛行機に比べればずっと楽だと思って安心すると、思うままにスピードをあげた。そして冒頭の会話に戻る。



「おい、着いたぞ。」

 ハンスは少しぐったりとした様子のルカに声を掛けた。するとルカはキッとハンスを睨んだ。

「あんたには恐怖心ってもんが無いの!?よくあのスピードで平気でいられるわね!帰りはあんたの運転はごめんよ!私が運転するから!」

「わかったよ。好きにすればいいだろ。お前運転したことあるのか?」

「無いけど絶対にあんたよりはましよ!」

 ルカは怒りながら車を降りると、乱暴にドアを閉めてそのまま街の方へと歩き出した。

「おい、16時にはここに戻って来いよ。明るいうちに帰るって約束してるんだ。」

 車を降りたハンスが呼びかけてもルカは振り返りもしなかったが、まぁ聞いているだろうと思ってハンスも街の方へと歩き出した。


 車を停めたのは中心地からある程度離れた場所にある公園のそばだった。ラスキアードの地図は確認していたので主要な建物の場所は大体把握している。

 ハンスは早速ラスキアの中で一番大きいという国立図書館へと向かって歩いた。図書館であれば新聞も雑誌も本も豊富に揃っているだろう。まずは普通にそれらから情報を収集しようと考えていた。


 中心地へ近づくと、ハンスはその建物の大きさに驚いた。

 アトリアでは大きい建物といえば議事堂や議員会館くらいで、デパートなどがある中心地でもそこまで高い建物はない。その反面、白い壁とオレンジの屋根で統一された美しい街並みは、港の先に広がるコバルトブルーの海から流れてくる心地よい潮風と相まって、リゾートらしい開放感に満ちていた。


 ラスキアードはそんなアトリアとは全く雰囲気が違った。

 細かい彫刻が施された重厚な建物が立ち並び、道路には大量の車が行き交っている。まさに大都会という印象だ。四大国の筆頭とも言われるラスキア共和国の首都で、世界でも最先端の都市の一つなのだから都会なのは当たり前なのだが、ハンスは何となく息苦しさを感じた。ここに住むならアレクやルカが住んでいる山の上の方がよっぽど良いと思えた。


 国会議事堂や各省庁の建物が立ち並んでいるラスキアードの中でも政治の中心地と言われる地区に、国立図書館はあった。入り口を確認しても特にセキュリティチェック等も行われておらず誰でも入れそうな様子だったので、ハンスはそのまま中に入った。

 図書館の中は吹き抜けになっていて、壁一面に大量の本がぎっしりと並べられている。丸い天井には美しい幾何学模様が描かれていて、中央には二階へと続く螺旋階段が伸びていた。

 蔵書数からしてアトリアの中央図書館の何倍あるだろう。アトリアに居た頃にはほとんど航空機関連の本しか読んだことのなかったハンスは、アレクの書庫で読んだ本の素晴らしさに触発されて本への興味が尽きなかった。ただ単に自分に足りない知識を埋めるためだけではなく、純粋に本を読むことが好きになっていた。

 それはこの世界の森羅万象を知ることへの第一歩のような気がして、本の中で新しい価値観や考え方に触れるたびに胸が高鳴った。


 ただここへ来た一番の目的は今現在の情報を手にいれることだ。

 本を読み耽りたい欲を抑え込んで、ハンスはまずラスキア内で発行されている全ての新聞が閲覧できるコーナーで、今日の日付の新聞から読み漁った。


 多くの新聞の一面はハインリヒ・フライスラー大統領による一般教書演説についての記事だった。ラスキア共和国の大統領は国家元首でありながら行政権と軍事権を掌握しており、大国の絶大な権力を一手に握っている。

 一般教書演説は議会への出席権を持たない大統領が、議会からの招待によって上下両議員の前で自身の考えや方針を述べる重要な機会だ。


 大統領は立法権においてだけはある程度の制限がある。

 大統領令を出す権限を有してはいるものの、議会での法案提出の権限は持っておらず、その代わりに教書を提出することによって議会へ法案制定に対して要望を出すことができる。

 一般教書演説は、元々は書面で提出していた教書が、演説という形で大統領の考えを全議員と国民に伝える貴重な機会の一つとして発展したものだ。


 ハンスは昨日行われた演説をラジオで生で聴いてはいたが、二時間近くに及ぶ演説の全てを詳細に把握してはいなかったので、演説の全文が記載された新聞を読むことができるのはありがたかった。

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