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群青、君が見た空の軌跡  作者: 乃上 白
第一章
71/190

71話 決意

「アルデバランの人たちが言ったとおり…やっぱりあの機体で本土に飛ぶなんて無茶だわ。三人がアルデバランに行ってなければどうなってたか…。本当に何もかも捨ててラスキアードに渡ったんだわ…。」

 クリスに全ての経緯を聞くと、ゾフィーは失意の色を濃くした。兄が飛び立った意味をゾフィーには理解できた。

「いや、それは違う。ハンスは飛び立つ直前、俺に必ず帰ると言った。それまでゾフィーを頼む、とも。」

「それは…本音だったのかな? お兄ちゃんは一見向こう見ずなようだけど、先の計算ができないような人じゃない。少なくともその時点で命を賭ける覚悟はしてたと思う。だとしたらそれは一時的にでも私たちを安心させるために言っただけで、本当はここに必ず戻ろうとは思ってないかもしれない。…お父さんがアトリアの独立を望んだ理由を知ったら、もしかしたらお兄ちゃんはその意思を継いでー」

 ゾフィーはそこまで話して口をつぐんだ。もはやハンスが自分たちのもとに戻ってくる可能性は低いように思われた。


「…私、アルデバランとちゃんと話をしたい。アトリアが独立しなければならない理由を聞かなくちゃいけないわ。」

 唐突な発言に、二人は驚いてゾフィーを見た。

「何だって!?まさか、アルデバランに入ろうなんて−」

「わからない。でもこのまま待ってるだけなんてできないし、もし本当にラスキア政府と戦争になるとしたら、私はアトリアを守りたい。もちろんそこまでして独立する必要があると思えたならだけど…。」

 クリスはゾフィーから出た言葉がにわかに信じられなかった。自ら反政府組織や戦争に介入しようとするなど、これまでのゾフィーからすると考えられない発言だと思った。するとジルベールが慌てて諌めるように言った。

「だめだ!ゾフィー、落ち着けよ。ハンスが答えを聞いた後にアルデバランに入るかどうかなんて、全く分からないんだぞ?それにお前がアルデバランと接触するのは危険だ。ただでさえ軍に目をつけられてるんだから…。」

「じゃあ、もしこのまま戦争に突入したとしたら、二人はどうするの?本土や海外に渡る方法もあるしそれを否定することは決して無いけど、私は…アトリアが好きなの。アトリアで産まれたことに誇りを持ってる。もしアトリアが戦争に負けた後に全てを奪われてしまう可能性があるなら、私はそれに抗いたい。…たとえお兄ちゃんがどんな選択をしても…。」

「戦争がどういうものか知って言ってるのか!?もしゾフィーがアルデバランに入ったとしたら、戦闘機のパイロットになるよう促されるに違いない。ゾフィーほどの腕があるなら当然だろう。けど俺は…、ゾフィーが戦闘機に乗って人を撃てるとは到底思えない!」

 クリスは珍しく声を荒げた。ゾフィーらしくない言動に、ハンスが遠くに行ってしまったことで一時的に混乱してるだけだと思いつつ、声をあげずにはいられなかった。

「それは…もし私やお兄ちゃんが軍に入ってたとしても同じでしょう?お父さんだってそうだったわ。そうして大切な人や自分たちの誇りを守ってきたのよ。実際にどういう心境になるかは正直今はまだ想像がつかないけれど、でも−」

「ゾフィー、お前は今混乱してるだけなんだ。ハンスがいつ帰ってくるかもわからない状態だから無理もない。少し落ち着け。焦らなくてもまだ時間はある。」

 ジルベールがそう言うと、クリスも自分自身を落ち着かせてから続けた。

「ジルベールの言う通りだ。実は、アルデバランがラジオの電波を使ってアトリアの民衆に一斉蜂起を呼びかけているんだ。その日が約一ヶ月後の6月20日だ。アトリアにとって重要な法案が決議される予定日と同じ日で、もしその法案が通ったらアトリアは完全にラスキアの支配下に置かれる。本格的に戦争になるとしたら6月20日以降になるだろう。…だから焦って動こうとせずに、一度落ち着いて自分がどういう行動をすべきなのか、改めてしっかりと考えるんだ。」

 ゾフィーの気持ちは固まっていたが、何か言おうとした口をつぐんだ。自分を心配してくれる二人をこれ以上不安にさせたくなかった。


「ゾフィー、お願いがある。もしどうしてもアルデバランに接触したいと思ったとしても、絶対に一人では行かないと約束してくれ。そのときは必ず俺たちも一緒に行く。…約束してくれるか?」

 祈るようなクリスの言葉に、ゾフィーはゆっくりと頷いた。

「絶対だぞ!一人で行くのだけは本当にやめてくれ。ハンスを止められなかった後悔を、お前でまで味わいたくない…。その気持ちはゾフィーもよくわかるだろ?」

 ジルベールがゾフィーの目を見て真剣に言った。その気持ちはゾフィーにも痛いほどわかった。

「…わかった。約束する。」

 ゾフィーは二人の目を真っ直ぐ見返した。クリスはその目が一瞬ハンスそっくりに見えて、なぜか言いようもない不安に駆られた。


 その後も何度もゾフィーに念押しして、二人は後ろ髪を引かれる思いでクルトの家を後にした。二人ともできることならずっとゾフィーのそばに居たかった。


 ハンスが居なくなってゾフィーがまるでハンスに引き寄せられるように、思考や言動までも似てきているかのように思われた。ただそれはどうしても心許ない変化だった。ハンスのように強くなりたいと焦るゾフィーの気持ちが無理やりそうさせているだけのように思えた。


 こんなときだと言うのに、アトリアの海に沈む夕日は途方もなく美しかった。二人は港の向こうからちらちらと顔を出す禍々しい夕日に照らされながら、愛しい人を守る決意を固めていた。

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