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群青、君が見た空の軌跡  作者: 乃上 白
第一章
60/190

60話 アトリアでは

 ラジオから流れてくるのは5日前に起こったチャンピオンシップでのテロ事件関連のニュースばかりだ。犯人はレグルスという反政府組織で、実行犯は全員現場で射殺されたということだった。犯人たちによって殺害された人々の中にはヴァルツァレク国防長官をはじめ政治家や官僚、大企業のトップなど、ラスキア政府に強い影響力を持つ人物が数多くいた。銃撃戦には一般人もたくさん巻き込まれ、死者は実行犯を除いて142人、重軽傷者は600人以上にのぼった。


 レグルスによる犯行声明は事件直後にセントラルにあるラジオ局の電波をジャックする形で表明された。動機はラスキア政府によるアトリアへの選挙介入や治安維持部隊による不当逮捕などに対抗するものとしていたが、アトリアの独立を謳うまでのものではなかった。

 ラスキア政府はこれを国家に対する重大な反逆行為とし、レグルスの基地を武力によって徹底的に攻撃すると宣言した。ただ基地の場所の断定が難しいためか、現在のところはまだ軍による大規模な作戦は展開されていないように見えた。

 それでもセントラルにある貧困街の一部は封鎖され、そこから閉め出された人々による暴動などがこの5日間の間に頻発し、軍と衝突を起こしている。

 セントラルの治安はますます悪くなり、航空学校でも休校が噂されていたが、現在のところはまだ通常通り授業が行われていた。


 クリスは今やどの情報が正確な情報なのか分からなかった。

 アトリアのメディアがラスキア政府によって情報統制されていることは以前から言われていたが、戦争が始まったという今となっては確実に政府の手が回っているに違いない。

 信頼できるのはむしろ電波ジャックによって表明されたレグルスによる犯行声明だ。罪のない人々を大量に巻き込んでまで事件を起こしたことは全く理解できないが、この事件がラスキア政府に対する不満が爆発して起こったものだということは声明によって明白にされた。


 アトリアの民衆によるデモはこれまでも度々行われて来たが、事件3日後に現場となったアンサンクトナディアでラスキア中央政府に対する大規模なデモが起こるとすぐにセントラルに飛び火し、デモへの参加者は加速度的に増えていると、噂レベルでは聞いていた。

 というのは、デモが発生するとすぐに治安維持部隊が鎮圧にかかり、また情報統制されたメディアはデモの情報などを公表しないため、毎日家と学校の往復だけに制限された自分の今の状況では、同じ市内に居ながらでもセントラル全体の状況を把握するのは困難だったからだ。


 ただ、今やラスキア政府に対する不満はアトリア全体で高まっている。事件がセントラルでなくアンサンクトナディアという一地方都市で勃発したのも大きかったのかもしれない。

 セントラルにある中央集権的な議会やラスキア政府の庇護により甘い汁を吸っているとされる一部の上流階級の人々に対する不満も合わさって、地方に住む人々の中でもデモに参加して政府に不満を訴えようとする人々が出て来たことで、今やアトリア全体が不満と怒りの波にのまれているように思えるのだ。

 もしこのままアトリア内の各都市でも大規模なデモが起こったり、議会があるセントラルに大量に民衆が押し寄せてくるようなことになれば、アトリア自体の独立運動に発展しても不思議ではない−。


 クリスは事件が起こった後セントラルに戻って来たここ数日のうちに、できる限り情報を集めてアトリアの現状を分析していた。貿易商をしている親の会社の社員たちや、これまでのパーティーで知り合った上流階級の知り合い、航空学校の友人など、様々な方面から少しずつ情報を得ていた。


 今頃ハンスはどうしているだろう、とクリスは思った。

 ハンスが飛び立ってアルデバランから真実を聞いたあと、ジルベールとレイと共に一度基地に戻った。三人で話し合った結果、ハンスの安否が確認できた時点でみんなに全部話そうということになった。基地に機体が無いことはすぐにバレるだろうが、安否がわかるまではシラを切り通すしかない。そのためそれぞれ学校に出ることなく基地からそのまま家に帰った。


 ハンスの安否が分かるまで学校には行かないつもりだったが、意外にもアルデバランからすぐに連絡が来た。今朝自宅の使用人からポストに自分宛の封書が入っていたと渡されたのだ。

 すぐさまそれを開封すると、タイプライターで書かれた普通の手紙が入っていた。内容は全く中身の無いものだったが、手紙の飾り枠の一部が不自然に途切れていて、それがモールス符号であることに気づいた。それを解読すると「H SAFE LKD」という文字が浮かび上がった。


 クリスは心から安堵した。ハンスは生きて無事ラスキアードに到着したんだ−!

 ほっとした喜びを噛み締めながら、クリスはすぐにジルベールとレイに電話した。


「ハンスは無事だ、一旦基地に集まろう。みんなにも基地に来るよう伝えてくれ。」



 そして今、クリスは基地へ向かっている。アトリア州議会の議事堂や議員会館のある中心街は今やテロを警戒した軍の兵士が大量に張っていて、人通りは格段に少なくなっていた。そのため少し遠回りして港方面へと急いだ。


 基地に到着してそっと扉を開けると、奥のソファのあたりですでに全員が集まっているのを確認した。クリスが基地に入った瞬間、全員の目がクリスに集まった。


「クリス!4日間もどうしてたんだよ!?今日は全部話してくれるんだろうな!」

 ジャンがすぐさまクリスに向かって叫んだ。その声は切実だった。

 あの事件があった日、ジャンはクリスに後を頼まれてから、その日のうちに全員を無事セントラルに帰していた。


「ジャン、悪かった。みんなを無事に帰してくれてありがとう。改めて礼を言うよ。」

「そんなのはいい!ハンスはどこへ行ったんだよ!?昨日ここへ来たら機体も無くなってるし。まさかあいつ、あの機体に乗ってどこかへ行ったのか!?」


 クリスはジルベールとレイの顔を確認した。困惑した目をした二人を見て、まだみんなに何も話していないと分かった。

 入り口近くにいたクリスは改めてみんなのそばに向かうと、真っ先に結論を伝えた。

「ハンスの居場所は今朝分かった。あいつは今ラスキアードにいる。」

「は…!?」

 予想もしない内容にジルベールとレイ以外の全員が絶句した。

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