表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
群青、君が見た空の軌跡  作者: 乃上 白
第一章
55/190

55話 初めての戦闘

 指揮官が搭乗している長機からの指示を受け、僚機に乗った若いパイロットは仕方なく高度を上げた。

 一方敵機は垂直降下したと思ったらすぐに反転して急上昇した。かなりのGがかかる動きを平気で繰り出している。偵察機からの情報では航空学校の機体とのことだったが、学生が乗っているとは思えなかった。


 だが上官は冷静だった。ハンスの機体が降下した瞬間に機体の後ろにつけ、急上昇にも素早く対応して追随し、ロールしながら上昇する敵機が完全に背面姿勢になって頂点に達した瞬間、終わりだ!と思いながら機種上面と主翼に設置された機関銃を4門同時に発射させた。


 だがハンスはそれさえもかわした。急激に機首を下に下げ、一瞬完全に海面に突き刺さるかのように垂直体制になって厚い雲の下まで急降下してから、強引に操縦桿を引いて海面擦れ擦れで体制を水平に立て直した。


 雲の切れ目からその様子を見ていた僚機のパイロットは思わず舌を巻いた。あんな動きをする機体は見たことがない。

 だが関心している暇はない。自分に与えられた役割を果たすべくすぐさま敵機を追った。急激に高度を落とした今がチャンスだ。抵高度ではこれまでのような派手な動きはできないだろう。

 一気に急降下して雲の下に出ながら今度こそ射角に収める。


 一方ハンスはこのタイミングで最大出力を出した。残された時間はわずかだ。ここからは最高速度で目的地まで向かうしか他に選択肢はない。これ以上追尾されるとエネルギーも冷却水ももたない。

 上にいる僚機から発射された銃弾が、海に突き刺さった。スピードを上げたハンスの機体はそのまま徐々に高度を上げて雲の中へ突入しようとした。


 それを察知した長機は右側に大きく弧を描きながらハンスの機体後方に回り込んだ。上空で射撃をかわされたときには少し遅れを取っていたが、再度敵機後方位置を確保するために上手く高度エネルギーを利用しつつ経験則から生み出される見事なパシュートカーブを描きながら、高速で飛行する敵機に迫ったのだ。


 ところがハンスの機体が雲に突入する前までには寸秒間に合わず、そのまま敵機を追って雲に突入した。一方僚機は最初の命令を守りかつ敵を逃がさないよう、全体を見渡すため厚い雲を横から確認できる位置に回り込んで戦況に目を凝らした。


 雲に突入した直後、長機はすぐさま前方に向けて銃弾を発射した。視界の届くギリギリのところで敵機の尾翼をわずかに確認していたのだ。

 ハンスはそれを機体をロールさせることで何とかかわしたが、長機は機首を傾けてさらに広い範囲に銃弾を飛ばした。すでに敵機は全く見えていなかったが、一発でも当たる確率を上げるため照射範囲を広げた結果だった。


 最高速度で飛行しているハンスは巡航速度時よりも旋回性に欠けた。そもそも旋回する時間も残されていないため、何とか機体を傾けることで銃弾の雨をかわそうとしたが、とうとう最後に左主翼へ二発の銃弾が当たった。すると途端にバランスを崩し、急激に高度を下げて雲の下に出た。


 雲の横側からそれを確認した僚機はすぐさまハンスの機体目掛けて一気にスピードを上げた。敵機を確実に堕とせると確信した若いパイロットはかなり高揚していた。


 だが次のシーンで若いパイロットの視界に飛び込んで来たのは、自機の銃弾が敵機に打ち込まれる瞬間ではなく、敵機下の海面から真っ直ぐ急スピードでこちらに向かってくる黒い機体だった。

 あっと思った瞬間には、鋭い銃弾が自機の機首と主翼を貫いていた。

 僚機は煙を吐きながら海面に激突した。


 ハンスは機体のコントロールが効かず徐々に高度とスピードを落とした。

 雲の下に出た瞬間、海面すれすれを行く黒い機体が自分の機体を通り越したあたりで急上昇するところまでは確認したが、そのあとは自分の機体を制御することに必死だった。

 被弾したことで冷却水が漏れ、エンジンはもう数分も保たない。だが水上着陸するにはコントロールが効かなすぎる。それでも他に選択肢はない−。


 ハンスが覚悟を決めた瞬間、突然後方から一機の機体が自分の機体のすぐ横に現れた。一瞬自分を撃った機体が追ってきたのかと思ったが違った。さっき雲を出た瞬間に見た黒い機体と同じような機体に見える。

 驚いたことに黒い機体のパイロットはハンスに対して左に旋回するようハンドシグナルを送ってきた。さらに左前方にある小さな島を指差している。


 他に選択肢を持たないハンスは相手のサインに従った。島の向こう側の一部が開けていて海岸のようなものが見え、黒い機体がそこに誘導しようとしていることが確認できた。

 即撃墜できるこの状態で撃ってこないということは、少なくとも軍の人間ではないことは確かだ。


 二機は共に左に旋回して島の向こう側に回り込んだ。そこにはかなり幅の広い海岸があった。

 ハンスは最後の力を振り絞り、なんとかそこに機体を着陸させた。エンジンはすでに爆発寸前にまで高温化し、バイメタルはとうに危険値を示していた。


 一度死を覚悟した状態から奇跡的に生き残ったことにしばし呆然としたとき、戦闘中には完全にマヒしていた右手の痛みが、ハンスの中にどっと溢れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ