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群青、君が見た空の軌跡  作者: 乃上 白
第一章
44/190

44話 真実

 ハンスはこの組織の人間の言動やゾフィーの言葉から、これから自分たちの父親に関する秘密を明かされる可能性を感じていた。ただ、もし父親のことで何を言われたとしても揺るがないとすでに覚悟を決めていた。

 もし父がこの組織と何かしらの関係を持っていたとしてもあくまで過去のことであり、今の自分とは関係ない。自分には自分の人生があるし、ずっと心に持っていた目標もある。その目標ももう手の届くところまで来た。

 エラルドはそのハンスの力強い目を見て続けた。


「昨日行われたレースの結果を受けて、先程軍からパイロット試験の結果が出た。採用されたのは優勝した君と2位のゾフィーだ。」


 ハンスはその男から放たれた意外な内容に面食らった。父親の話だと身構えていたら、突然パイロット試験の結果を聞かされたからだ。そもそも昨日のレース直後に発生したあの事件によって、試験の結果が出るとしてもかなり先だろうと思っていた。

 ハンスは突如念願だったパイロットになれたことを知って一気に目の前が光に溢れたような感覚になった。


「おめでとう、と言いたいところだが…、よく聞きなさい。パイロットは辞退するんだ。君は軍に行ってはいけない。」

 ハンスは驚いてエラルドの顔を見た。

「何を…!?」

 一瞬取り乱しそうになったが、すぐに気持ちを落ち着かせた。そもそも誰かもよくわからない奴に今更何を言われようが関係ない。


「…何があっても辞退はしない。」

 するとエラルドはわかっている、というように軽く頷いた。

「まぁ、君ならそう言うだろうな。だが君は今軍に入ったら確実に排除される。ゾフィーも同じだ。わざわざ死にに行く必要はない。辞退を伝えても軍は君を拘束しようとするかもしれないが、具体的な理由がなければそこまで執拗に追っては来ないだろう。まだ今の段階であればな。」

 ハンスは意味がわからなかった。…排除される?軍に殺されるということか?俺とゾフィーが?


「何を言ってる…?自分たちが軍に何かした覚えはないし、殺される理由がない。」

「もちろん。君たちはただレースに出て良い成績を収めてきただけだ。原因は君たち自身にはない。君たちの父親や我々にある。」

 ハンスはやはり父親に関する秘密が関係していることを悟った。この反政府組織と父親には深い関係があり、そのせいで自分たちが軍にとっての排除の対象になっているということか。

「父は…この組織の何だったんですか。」



 回答については何となく勘付いていたが、念のため確認した。

 自分とは程遠い世界の出来事が突然目の前に迫って来ていることを感じつつも、ハンスは自分が思う以上に冷静だった。


「…勘が良いな。フランツは我々のリーダーだった。6年前に軍に排除されるまでは。」

 父親がこの組織の中で重要な位置を占めていたということはハンスの予想の範囲内だったが、軍によって殺されたという言葉には少なからず衝撃を受けた。それでも動揺を見せないよう、ハンスはエラルドの目を見据えて反論した。


「…親父は軍事基地の爆発事故に巻き込まれて死んだ。そのとき基地は壊滅的な状態になり、多数の兵士が死亡した。軍側が父親を排除しようとしたとするなら、なぜ大量に味方を巻き込んで軍にとっても痛手となるような殺し方をする。」

 ハンスの冷静さに、エラルドは心の中で感心していた。報告に聞いていた人物像よりも随分大人で賢い印象を持った。


「…それは我々にとっても大きな誤算だった。軍がそこまでの痛手を伴ってまで強引にフランツを消そうとするとは思わなかったんだ。我々はもしフランツの正体が軍に漏れたとしても、すぐには排除できないような仕組みを既に持っていた。だが、軍はそれさえも一気に叩きつぶすために大量の味方をも巻き込んだ凶行に出た。政府はフランツがそれほどの危険人物だということに気づいていたということだ。」

 そこまで聞いて、ハンスは自分の中の父親像とこの男の語る父親の姿との大きなズレに戸惑った。

 危険人物だと…? …父さんは優しい人だった。軍のエースパイロットとして活躍し、高官として部隊を率いて、それでも常に家族を大切に思い、いつでも優しく笑っていた。もしこの男の言うことが本当だとしたら…、自分は父親の何を見ていたのだろう。

 反政府組織に加担して軍に暗殺されるなど、自分の知っている父親からは全く想像できなかった。


「…父が軍にとってそれほどの危険人物だった原因は、反政府組織のリーダーであるということだけですか。でもあなたはこうして生きているし、組織も機能している。」

 ハンスの冷静な指摘に引き続き軽い驚きを感じつつも、エラルドはハンスの疑問に答えた。

「フランツは特別だった。アトリアの反政府組織は、穏健派と言われている我々アルデバランだけじゃない。他にも主な組織としてレグルスやフォーマルハウト、アンタレスといったいくつかの過激派組織が存在する。アトリアがラスキアとの戦争に負けて属州となった直後からそれらの組織は存在していた。だが一度たりとも共闘したり、ましてや統一を図れたことはなかった。それぞれがそれぞれの正義を主張し、権益の奪い合いを繰り返していた。ラスキア政府を倒すという目的は一緒でも、そんな数々の過去の遺恨から、組織同士が協力するというようなことはとても考えられなかったんだ。…フランツがアルデバランのリーダーとなり、反政府組織を全て統一するまではな。フランツはそれをやってのけた。そして目的まであと一歩のところまで体制を整えていたんだ。アトリアを独立させるという、フランツ自身の心からの願いであり、全ての反政府組織の最終目的を達成するために。」


 ハンスは父親の願いというものを初めて知った。そしてその内容が今の自分とあまりにかけ離れていたことに、これまで自分が見てきたもの、触れてきたもの、考えてきたことが、全て泡のように消えていくような感覚になった。

 今まで信じてきたものが闇に溶け、自分だけ一人取り残されたような思いに駆られ、再び頭がガンガンした。

「…アトリアを独立させる…?何でそんな必要がある?戦争を起こして、多数の犠牲を強いて、たとえ独立できたとしても死んだ人間は二度と帰ってこない。ラスキア政府のアトリアに対する政策は確かに一方的で理不尽だけれど、現状アトリアはアトリアとして存在し得ている。人生を選択できる自由もある。平和に暮らしている人々の生活を壊してまで、悲惨な戦争に巻き込む必要がどこにある!?」


 激しい頭痛と混乱の中で、ハンスは次第に感情のコントロールが効かなくなった。

 自分がこれまで何があっても乗り越えて来られたのは、父親への憧れと目標があったからだ。そのことに改めて気づき、同時にそれらを永遠に失ったことを認識した途端、どうしようもなく怒りに似たような感情が湧き上がった。

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