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群青、君が見た空の軌跡  作者: 乃上 白
第一章
42/190

42話 残された者たち

 クリスたちは何とか無事出口から出て滑走路の近くまで逃げて来ていた。そのあたりには他にも会場から逃げてきた人々が沢山居た。

 クリスは全員の無事を確認し、まずは一学年下のゾフィーのチームクルーたちに対して全員このまま家に帰るよう言った。


「でも、まだゾフィーが…!」

 不安そうな顔を見せる後輩たちに対し、クリスは落ち着いた声で言った。

「ゾフィーにはハンスが付いてるから心配ない。ゾフィーとハンスは元々トゥラディアが終わった後しばらく俺の家に来ることになってるから、来たらすぐにゾフィーからお前達に直接連絡させる。この事件はすぐにセントラルにも伝わる。お前達の親も心配するだろ。」


 そう言われてもゾフィーのチームクルーたちはただ不安そうに顔を見合わせていた。クリスは後輩たちから少し離れてジルベールに声をかけた。

「ジルベール、俺は会場に戻る。他のみんなを頼む。」

「だめだ、俺も行く。」

 即座にそう言ったジルベールの目は真剣だった。クリスは言葉を選んで続けた。


「…会場が今どんな状況になってるか分からない。少なくとも銃撃戦になるくらいの人数が居たんだ。会場に近づくだけでも命懸けだぞ。」

「わかってる。それでも行く。」

 ジルベールのはっきりとした物言いに、クリスは説得は無理だと悟った。ジルベールの気持ちは自分にも痛いほどわかった。


「…ジャン、みんなを頼めるか。後輩達も含めて全員を無事に帰してくれ。」

 ジャンは一瞬の間を空けて、静かに頷いた。ハンスとゾフィーを置いてきた時点でクリスもジルベールも会場に戻ると言うことは予測がついていたし、ジャンは自分の役割を理解していた。二人が居なければ次は自分がその役割を引き継がなければならない。


「無茶なことはするなよ。そういうのはハンスだけで十分だ。」

 ジャンがわざと明るく答えると、クリスは頷いた。他のみんなに対して二人と合流したらできるだけすぐに連絡する、セントラルで会おう、とだけ伝えると、すぐさまジルベールと共に走って会場へ向かった。


 会場に近づくにつれて逃げてきた人の人数が増えていった。

 中には爆発に巻き込まれたのか腕や足を失った人、生死は分からないが黒くこげた人物を抱えて懸命に進もうとする人、誰かの名前を呼んで泣き叫ぶ人、座り込んでただ呆然としている人などが居て、すぐそこで起こっている銃撃戦の生々しさを伝えていた。二人はハンスとゾフィーの姿がないか確認しながら進んでいたが、会場のすぐ近くまで戻っても二人の姿は見つけられなかった。


 銃撃戦が始まってから少なくとも15分ほどは経っていると思われるが、会場の中からはまだ大量の銃声と爆発音が響いている。だがさすがに出口の外は地元の警察らが駆けつけて周りを固めていた。

 警察の中には少数だが軍の治安維持部隊も混ざっていた。VIP達が集まるこのチャンピオンシップは警備もかなり厳重だが、ほとんどは会場の中の政府関係者やVIPたちの側に配置されていて、会場の外は割合的に少ない。

 さらにこの騒ぎで外に居た部隊の多くが中に入って応戦したため、今外に残っているのは全体に比べると少数だった。


 クリスとジルベールは出口のすぐ側まで戻ってハンスとゾフィーが居ないことを確認すると、目を見合わせて中に戻ることを決めた。

 中に戻ろうとしていることを警察に気づかれると確実に止められると思い、できるだけ出てくる人に紛れて向かう。だが入り口に入ったすぐの所に身をかがめて中の様子を伺っている治安維持部隊の兵士が数人居たらしく、その中の一人に気づかれた。

「おい!!何してる!?中は銃撃戦だぞ、すぐに向こうへ出ろ!!」


 兵士はクリスとジルベールの腕を掴み、強引に出口の外へ引っ張ろうとした。

「まだ中に友人が居るんです!離してください!」

 二人は何とか逃れようとしたが、兵士がそれを許すはずもなかった。


「だめだ!!すぐにここを離れろ!!」

 豪腕な兵士が二人を無理やり会場出口の外まで連れて行くと、逃げてきた人々の保護対応をしている別の兵士たちが駆けつけて来た。

「こちらで保護します!来なさい!」

 二人の兵士がそれぞれクリスとジルベールの腕を掴むと、連れてきた兵士の方は掴んでいた手を離してすぐに元の位置に戻っていった。

 まだ暴れようとする二人を押さえながら、兵士たちは警察の包囲の外側まで二人を連れていった。

 だが人気の少ない位置まで来ると、突然兵士の一人が二人に耳打ちした。


「…ハンスのチームクルーだな。ハンスとゾフィーは無事だ。すぐにここを離れなさい。」

 二人は驚いてその兵士を見た。

「こっちを見るな。他の兵士に気づかれるとまずい。」

 咄嗟に二人が前を向き直すと、兵士は続けた。

「そのまま聞け。ハンスとゾフィーは我々が一旦預かっている。危害を加えたりすることはない。お前達はセントラルに帰れ。少なくともゾフィーはすぐに解放される。」


 それを聞いたクリスは前を見たまま混乱しつつも口を開いた。

「ゾフィーだけ?あなたたちは誰なんですか!?何で二人を!?」

「我々が誰なのかは言えない。それは君たちのためだ。二人を預かった理由はゾフィーの口から直接聞くことになるだろう。」

 いくつもの疑問が二人を襲ったが、クリスはとにかく二人の無事を確認したかった。


「ハンスは…!?」

「ハンスにも一度君達に連絡を入れさせるから安心しろ。ゾフィーはデューラーの家に帰す予定だ。ハンスもそこに連絡させる。」

 クリスは自分の名前が出て驚いた。だがこの人たちが誰なのかは全く検討がつかなかった。

 ジルベールも訳が分からないまま怒気を込めて訴えた。


「二人は確実に無事なんだろうな!?」

「静かにしろ。重ねて言うが、我々が二人に危害を与えることは絶対にない。お前達が帰らなければ二人の無事も確認できないぞ。」

 それだけ言うと、兵士たちは二人の腕から手を離した。そして二人を見ることもなくまた出口の方へと戻っていった。


 二人は呆然としつつも兵士の言葉を信じるべきかどうか反芻した。少なくともあの兵士たちが自分たちにわざわざ耳打ちして嘘を付く必要もない、とクリスは考えた。

 疑いだしたらキリがないが、二人が既に何かしらの組織に拉致されたということは確実だろう。

 しばしの協議の末、クリスとジルベールは兵士に言われた通り二人の無事を確認するため、まずはセントラルに戻ることを決めた。

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