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群青、君が見た空の軌跡  作者: 乃上 白
第一章
40/190

40話 救護室

 気づいたとき、ハンスはベッドの上で天井を見ていた。自分がなぜここにいるのか全く思い出せなかった。


「あ、気づいた?ちょうどよかった。」


 ハッとしてその声の方を見ると、そこにいたのはモーリスだった。ハンスはますます状況が理解できなかった。


「訳がわからない、って顔してるね。無理もない。君はゴール直後に気を失ったんだ。極度の疲労で体の限界が来たんだね。でも大丈夫、右腕以外に外傷はない。疲労も点滴で少しは回復したかな?」


 モーリスはやさしくそう言った。ハンスは自分がなぜここにいるのかをゆっくりと思い出した。

「あの…、みんなは?ここはまだ会場ですか?」

 だが起き上がろうとするとモーリスに静止させられた。

「ちょっと待って。今点滴を外すから。」


 言われたハンスは一旦大人しく従った。モーリスは点滴の針を抜きながら続けた。

「ここはレース会場の中にある救護室で、みんなは先に建物の外にある表彰式の会場に居るよ。あと15分ほどで始まるから、ちょうど起こそうと思ってたところだったんだ。」

 その言葉を聞いた途端、ハンスは慌てて起き上がった。すると右手に激痛を感じた。

「痛っっ!」

「ああ、右手を使わないで。レースで酷使したおかげでヒビから完全に疲労骨折を起こしてる。ほら、固定してあげるからここに座って。」


 するとハンスはベッドに腰掛ける形で隣のスツールに掛けているモーリスの前に座った。既に添え木と包帯は巻かれていたが、モーリスはハンスの首から白い布を下げてその腕をしっかりと固定した。


「…ありがとうございます。」

 ハンスは素直に頭を下げた。するとモーリスは呆れたように口を開いた。

「まったく、君の無謀な行動には驚かされるよ。昨日の夜、イアンから今日君がレースに出るって聞いたんだ。何言ってるんだって怒ったんだけど、イアンはハンスは何があっても絶対出るからって聞かなくて。そのうえ、僕にレースの後の君を診て欲しいって言うんだ。…ほんと、歳が離れた弟だから甘やかせ過ぎたかな。」

 それを聞いたハンスはようやくモーリスがここにいる理由を理解した。

「すみません…。」

 ハンスが謝ると、モーリスはふっと笑った。


「…でも、素晴らしいレースだった。君たちがレースに熱くなる気持ちが少し理解できたよ。」

 それだけつぶやくとモーリスは立ちあがり、ハンスに手を差し出した。

「立てる?クリス君に君を表彰式に連れてくるように頼まれたんだけど、ドアの向こうでずっと君を待ってる人がいる。僕はこれで帰るから、何かあったらまたいつでも病院においで。」

 ハンスは頷き、モーリスの手を借りてベッドから立ち上がった。途端に体の重さを感じたが、少なくともゴール直後よりは断然体が楽になっていた。


 ハンスはモーリスに改めてお礼を言って、救護室のドアから外へ続く通路に出た。モーリスも一緒に出たが、「この先のベンチに君を待ってる人がいる、もうくれぐれも無理はしないようにね」とだけ伝えると、通路の奥へと消えた。


 ハンスはそれを見送ってから、モーリスに言われた方向へと足を向けた。

 確かに少し先にあるベンチに誰かが座っている。通路の向こうから入る外の光で逆光になってよく見えなかったが、近づいてみるとそこにいたのはゾフィーだった。


「お兄ちゃん…」

 ゾフィーはハンスを見て立ち上がった。ハンスが何か言いかけると、ゾフィーはそれを遮るように駆け寄って抱きついた。


「…おめでとう。」

 それだけ言うと、ゾフィーは背中に回した手をすぐに離して笑顔でハンスを見た。


「…なんだよ、もっと悔しそうな顔しろよ。」

 ハンスは微笑みながらそう言った。


「悔しいよ。だって、本当に全力を出して負けたんだもん。」

 言いながらゾフィーは満面の笑みを浮かべていた。ハンスはそんなゾフィーを見て、突然レースの最後の瞬間を思い出した。


「…俺さ、最後の瞬間、お前の機体が見えたんだ。操縦席まではっきり。」

 唐突なその言葉に、ゾフィーは驚いてハンスを見た。


「ほんと!?私も見えたの。お兄ちゃんの機体が私とゲートの間から現れて、抜き去っていく瞬間。まるで時間が止まったみたいに操縦席まではっきり見えて…。」

 するとハンスも驚いた。普通はあの超高速の場面で操縦席など見えるはずがない。


「それでね、ほんとにおかしいんだけど…、操縦席にいたのがお兄ちゃんじゃなくて、お父さんに見えたんだ。なぜかはわからないけど、はっきりとそう感じた。」

 真っ直ぐ自分の目を見て語るゾフィーの言葉に、ハンスは驚きを隠せなかった。


「ほんとかよ!?それ、俺もー」

 ハンスがそう言いかけた瞬間、突然外から銃声と人の叫び声が聞こえた。二人はぱっと音がした方向を見たが、ここからでは外の様子は分からなかった。


「…何だ?」


 ハンスが外の様子を確認しようと足を踏み出したとき、今度は複数の銃声が聞こえた。叫び声はさらに大きくなり、沢山の人が駆け回るような騒音が響いた。

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