39話 ありがとう
通常の倍以上の時間をかけてゆっくりとコースの外を旋回していたハンスの機体が、ようやく滑走路に戻ってきた。
チームクルー全員がすでにピットから滑走路に移動し、ハンスの帰りを待っていた。
ハンスの機体はかなり不安定ながらも何とか着陸を果たした。
クリスたちは真っ先にハンスの機体に駆け寄った。機体は停止位置よりだいぶ手前で止まっていた。
着陸時の態勢からして明らかに普通じゃない。クリスは不安な気持ちを抱えたままコックピットに手をかけた。
見るとハンスは右手を抑えた状態で体を伏せていた。クリスとジルベールが急いでキャノピーを開けてハンスに呼びかける。
最初は反応が無かったが、たまりかねたクリスが肩を揺らすと、ハンスは薄っすらと目を開け、目の前にいたクリスを見た。
「ハンス!!大丈夫か!?」
自分を呼ぶクリスの声に、ハンスはぼんやりとした頭で答えた。
「クリス…どうだった?レースは…」
その掠れた声を聞き、クリスはハンスが本当に限界まで闘ったことを悟って、どうしようもなく涙が込み上げてきた。そして思わず両手でハンスの首に抱きついて声を絞り出した。
「…優勝だ…!……ありがとう。」
ハンスはそれを聞いてようやくほっとしたような笑顔を見せた。左手で軽くクリスの肩に手を掛けて、小声でただ「うん。」とだけ答えた。
その様子を見ていたジルベール、レイ、ジャン、イアン、ヘンリーも皆思わず涙が溢れた。いつもふざけているエリックとアルバートでさえ目に涙を浮かべていた。
「ハンス、お前すげーよ。この大事な本番であれだけ無茶やらかすんだから…。」
ジャンは溢れた涙を拭いながら声を掛けた。
「ほんと、ずっと生きた心地がしなかったよ。何であんな操縦ができるの?無茶するにもほどがあるよ。」
レイがそう言ったところで、クリスはハンスの首に回していた腕を離して改めてハンスの顔を見た。ハンスはびっしょりと汗をかいていて顔色も悪かった。さらに右腕を見て驚いた。
「お前…その腕!」
ハンスの右腕は痙攣が治まらず今だにガタガタと震えていた。左手で抑えようとしていたが、左手もすでに全く力が入らなかった。
「救護班を呼ぼう!」
ジルベールが叫んだ途端にジャンとヘンリーが係員の元に走った。
ハンスは結果を確認したことで安心したのか、眠るようにゆっくりと目を閉じた。




