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群青、君が見た空の軌跡  作者: 乃上 白
第一章
26/190

26話 パーティーへ

「本当に素敵ですわ、お嬢様。やっぱり髪も衣装も専門家に任せて正解でしたね。とてもよくお似合いですよ。」

 マリアンヌは上機嫌で鏡越しのゾフィーに語りかけた。


「そうかな…?ちょっと派手じゃない?」

 ゾフィーは鏡に背を向けて自分の後ろ姿を確認した。

 落ち着いたワインカラーのドレスは背中の部分が大きく開いている。髪は左右に三つ編みの編み込みをして美しくアップさせていた。

 両腕にはさりげないレース編みのロンググローブをして、足元はドレスと同じ色のハイヒールを履いている。薄く化粧をしてアイラインと口紅をつけると、いつもの自分とは全く違うような気がして少し恥ずかしくなった。


「いいえ、少しも派手じゃありません。10代のお嬢さんですもの、もっと派手な赤でもいいくらいですが、このくらいの方が上品に見えて今回のパーティーにはぴったりですわ。」

 マリーはドレスに映えるゾフィーの美しく白い肌にすらっと伸びた肢体、細くくびれた腰にすっきりとした首が支える形の良い輪郭など、そのバランスの取れたスタイルににうっとりした。

「ゾフィーお嬢様が会場で一番お美しいと、このマリアンヌが保証します。もちろんもともと美人ですが、ドレスアップしたらどんな女優も敵わないくらい高貴なお美しさがあって…。」


 マリーがあまりに褒めてくれるので、ゾフィーはいよいよ恥ずかしくなってちょっと部屋に戻るね、と言って着替え部屋と化している客間を出た。

 階段を上ってハンスの部屋の前を通り過ぎるときに兄が出てこないか少し期待したが、まだ学校から帰って来てないようだった。

 相変わらずレースのための訓練にかなりの時間を割いているのだろうと思い、夢中になるとすぐに周りが見えなくなる兄のことを心配した。少し前には機体の改良のためと言って何日も家に帰ってこないときもあったくらいだ。


 自分の部屋に入った瞬間、義父がパーティーで紹介したい人がいる、と言っていたことを思い出して急に気持ちが重くなった。どうか勘違いでありますように、とゾフィーは薄い希望を祈りながらパーティーまでの時間を過ごした。



 ハンス達が機体の改修に成功して全ての準備が整い出した頃、予定通りシスレー社のパーティーが催されることになった。その日はチャンピオンシップ本番のちょうど10日前だった。


 クリスとジルベールは元々出席することが決まっており、レイとエリックとアルバートはクラスで実習があるということで、今日学校が終わってからの訓練は早めに切り上げよう、とクリスが提案した。全員どうせハンスが反対するだろうと思っていたが、意外にもすんなりと受け入れられた。

 クリスはそのことを少し訝しがりながらも、訓練自体は順調に進んでいるし休みも必要だとのことで、そのまま早めに解散となった。


 ホルシード王国時代に建てられた旧宮殿の一部を利用した会場は、夕方になると早くもたくさんの人々で賑わっていた。

 かなり広い宮殿の敷地内はいくつもの建物に分かれている。今回のパーティーで使用されるのはかつてもパーティーやサロンが開かれる際によく利用されていたバロン宮と呼ばれる建物で、メインの宮廷からは少し離れた場所にある。

 バロン宮自体はそこまで大きくなく、広いホールを備えた豪華な一軒家のような造りだ。広い庭園には一面に芝生が敷かれ、左右対称に整えられた花壇や木々が美しく配置されている。

 その庭園の周りは高い塀で囲まれているが、その塀の存在を隠すような形で内側には切れ目なく背の高い木々が植えられているため、高さの割にはそこまで圧迫感は感じない。

 唯一の出入り口である正面の門はかなり大きく、門というよりは小さなホールを抱えた建物だ。バロン宮でパーティーが催される際はいつもそこがレセプションホールとして利用されている。

 

 ゾフィーがレセプションで受付を済ましてから門の内側に出ると、そこでジルベールが待っていた。ジルベールはフォーマルな黒いタキシードをびしっと決めている。

 背が高く比較的ガッチリとした体型だが、手足が長くバランスが取れたスタイルにタキシードがよく似合っていた。


 一方ジルベールはゾフィーを見て驚いた。いつもは下ろしている髪をあげて、華奢な肩の上で耳につけた小さなイヤリングが揺れている。

 もちろん普段からきれいだとは思っていたが、ドレスアップしたゾフィーはモデルや女優も含めてこれまでジルベールが目にしたどの女性よりも一番美しいと思った。

 そのあまりの美しさに顔を直視できず、何か気の利いた言葉を言おうとしたが一つも口に出せそうになかった。


「じゃあ、行こうか。」

「うん。」

ジルベールは結局それだけしか言なかったが、ゾフィーは笑顔で答えてジルベールの半歩後ろを歩きながらその腕に軽く手を掛けた。

 ジルベールはどきどきし過ぎてゾフィーに自分の心臓の音が聞こえるんじゃないかと心配になりながら、庭園から会場までの道をゆっくりと歩いていった。



 クリスはその頃すでに会場の中で数人の女性と談笑していた。ライトグレーのタキシードが金髪の髪によく似合う。

 クリスはよくパーティーに出席しているので知り合いも多かった。特に女性はクリスを見かけるとこぞって声を掛けたがった。


 少ししてジルベールとゾフィーが会場に到着すると、クリスがすぐに気づいて声を掛けた。

「ゾフィー、ジルベール!今来たのか。…ゾフィー、すごく綺麗だな。元々美人だけど、今日はほんとに一段ときれいだよ。どこの女優かと思った。」

 クリスはジルベールが思っていても一言も口に出せなかった言葉を開口一番、いとも簡単にゾフィーに掛けた。


「ありがとう。ほんと上手ね、クリスは。」

「お世辞じゃないよ。ゾフィーにだけはいつも本気だから。」

「もう、冗談でもそんなこと言ってたら周りの女の子に睨まれるわよ。」

 ゾフィーは少し困った顔をしてから笑った。

 ジルベールは自分が言いたかった言葉を全てクリスに言われてしまったのが悔しかったが、笑うゾフィーを見たらやっぱりきれいだな、と思って見とれてしまった。

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