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群青、君が見た空の軌跡  作者: 乃上 白
第一章
25/190

25話 レースに向けて

 その後、ハンスたちは二十日以上かけてなんとか機体の改造を完了させた。操縦訓練に入るギリギリのところで無事テスト飛行まで漕ぎつけたのだ。


 表面蒸気冷却方式はラジエーターを使用した場合よりも構造が複雑な分、パーツも数倍に増える。さらにそれらのパーツはほぼ全て一から自分たちで作らなければならない。現在量産されている機体で表面蒸気冷却方式を採用している機体は一機もないため、そのためのパーツを作っている会社も存在しないからだ。


 ハンスたちは十日以上基地に寝泊まりしながら製作に熱中した。

 ありがたかったのは、スタルツさんがたまに顔を出してくれたことだ。ヴィルには絶対に内緒だぞ、と言いながら多くの貴重なアドバイスをしてくれた。スタルツさん曰く、お前らはいいチームだから会社とは関係なく俺が個人的に応援してやる、とのことだった。

 そんな思わぬ協力もあり、なんとかハンスたちは予定の期間で作業を完了することができた。



「くれぐれも無理するなよ!もしバイメタルが反応したらすぐに水上に不時着しろ!」


 大きなエンジン音が響く中、ジルベールがコックピットに乗り込んだハンスに大声で呼びかけた。ハンスはすでにゴーグルを着けて計器に異常が無いことも確認済みだった。ジルベールの声にハンスはにっこりと笑い、左手の親指を立てて合図をした。

 ハンスを乗せた新型機はゆっくりと前進した後、轟音を立てながら加速し、港の滑走路の先で海上へふっと飛び立った。


「あいつ、飛行範囲は15kmを越えるなってあれほど言ったのに!」


 ジャンはすぐに肉眼では確認しにくくなった機体が向かった方向を見ながら言った。


「いや、大丈夫、今方向転換したからすぐ戻ってくるよ。」


 レイは双眼鏡を覗き込みながらそれに答えた。まずは無事離陸に成功したこと、現状では飛行に異常が見られないことに全員が少しほっとしていた。

 するとすぐに海の向こうから新型機が戻ってくるのが肉眼でも確認できた。旧型に比べると明らかにスピードが上がっている。それを見た全員は期待に胸を膨らませた。


 ハンスは機体の想像以上の速さにかなり高揚していた。操縦桿が軽いー。空気抵抗を減らしたことで操縦性も増した感じがする。レースのときにゲートギリギリを曲がるあの感覚を思い出して、このまま急ターンを試してみたくなったが、テスト飛行でそんなことをしたら確実にみんなにどやされると思って何とか我慢した。

 そうでなくても予定の距離より遠くまで飛んでしまっている。速さが想像を超えていたので方向転換が遅れたのだ。無事元の方向に転換して滑走路が見えてくると、まるで自分の気持ちを落ち着かせるように徐々にスピードを落として着陸態勢に入った。


 無事滑走路に着陸すると、みんなが駆け寄ってくるのが見えた。ハンスを含め全員が機体改造の成功を確信した瞬間だった。



 テスト飛行を成功させると、翌日からすぐに操縦訓練に入った。

 訓練は初めから予想外に順調だった。ハンスは当初改良に成功すれば時速が30km/h程プラスになると予測していたが、実際には約40km/h近くも早くなっていた。

 そのおかげで訓練七日目に操縦訓練の授業で使用している学校のコースを借りてタイムを測ると、いきなり自己最高記録を更新した。さらにその十日後には、去年ゾフィーが優勝したときのタイムに並ぶ記録をも叩き出した。

 学校のコースは本番レースとは若干仕様が違うためあくまで参考タイムではあるが、これによって少なくとも優勝圏内には入ったと確信することができた。


 その頃行われた学校のテストでも無事全員が赤点を回避し、レースまでの道のりは想定以上に順調に整っていった。いよいよ本番まであと十日ほどとなった頃には、チームクルーのみんなには明らかに笑顔が増えていた。

 ハンスもすでに自分の機体と操縦にかなりの自信を持っていたが、ゾフィーも操縦訓練の授業で自己最高記録を更新したとの噂を聞き、改めて油断してはだめだと思い直して日々できる限りの訓練に勤しんだ。

 春もいよいよ本番となり、街にも鮮やかな花が咲き始め、海はより穏やかに美しく光り始めた頃だった。

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