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群青、君が見た空の軌跡  作者: 乃上 白
第一章
106/190

106話 その後

 「ルアンさんの最期については後に届いたブラウン中将からの手紙に記されていたんだ。その死は自殺とされたが、使われていた拳銃が当時アルデバラン捜査の指揮を執っていたグラネルト大将のものであったことから、グラネルトはルアンや組織との関係性を疑われて失脚した。そこでブラウン中将がその後を担って指揮を執ることになり、アルデバランへの捜査は組織内のメンバー自らがコントロールできるという、事実上秘密警察の脅威がほぼ排除された状態にすることに成功した。」


 ハンスはそれまでのアレクの話をずっと黙って聞いていた。三人は森の中の川に沿って少し下り、川岸に転がっていた木陰にある大きな岩に腰掛けて、美しい水の流れを眺めながらアレクの話に耳を傾けていた。


「…父さんは、ルアンさんの意思を継いでアルデバランに入ったんだね。」

 ハンスは今聞いた話の全てを自分の中で整理することはできていなかった。それでもルアンの壮絶な覚悟を直接見聞きした父が、彼の思い描いた理想を実現するためにその意思を継いだことは、ごく必然的であったように思えた。


「フランツがその後間もなくアルデバランに入る決意をしたのは確かだが、その理由としてルアンさんのことを口にすることは決して無かった。あいつはあくまで自分の意思で組織に入ったんだ。もちろん彼の言葉がフランツに影響を与えたのは明らかだが、彼自身も言っていたように、自分の信念に忠実に生きることを実行した結果だ。そうでなければ自らの命や人生を賭けてまで組織に入ることなど到底できない。」


 ハンスは父の選択について考えた。組織に入るということは自分だけでなく自分の家族にも影響がある可能性がある。当時最も大切に想っていたはずの母にもその可能性があることを分かったうえで組織に入ったのだ。

 そればかりか父はアルデバランに入ってリーダーとなり、反政府組織を統一して独立のための準備を一気に推し進めた。そして最期は軍と政府に殺された。それはまさにルアンと同じだと思った。


「アレクはハンスのお父さんと一緒にアルデバランに入ったの?」

 河岸から二人のそばに戻ったルカがそっと尋ねた。

「そうだ。俺は元々フランツがどんな決断をしてもそれを支えると決めていた。

 思えばそれは俺が子供の頃あいつに航空学校へ誘われたときからずっとそうだった。チームクルーになって機体の設計を手掛けたときも、軍に入ると決めたときも、どんな形であれあいつを支えたいという気持ちから選択したことだった。

 それは俺だけに限ったことじゃない。フランツには周りをそうさせる魅力があったんだ。だからあいつの周りにはいつも人が集まったし、その力とあいつが持っている天性の才能でもって大きなことを成し遂げると、それがさらに人を呼んだ。

 アルデバランに入ってからのあいつもまさにそうだった。遺恨の歴史を持つ反政府組織を一つにまとめ上げるなんてことは、フランツじゃなければ到底出来なかったことだ。」


「…父さんはどうやって統一を果たしたの?」

 ハンスがふと尋ねると、アレクは一度ハンスに目を向けてから川の向こうに視線を戻しつつ答えた。


「それにはいくつかの要因があるが、あえて言えばフランツの存在そのものだろう。

 フランツはアルデバランに入る前から空軍のトップ・エースで撃墜数は歴代最高を圧倒し、最終的な階級は将官最高位の上級大将にまで上り詰めた。過激派の統一に乗り出したのはフランツがアルデバランに入って数年後、リーダーになってからのことだが、すでにその名は軍内外のみならず他国にも広く知れ渡っていた。

 そんな人物が反政府組織のリーダーとして交渉の場に現れ、穏健派であるはずのアルデバランが武力革命の準備を進めている事実を告白したこと自体、過激派にとってはかなりインパクトのあることだった。当時から過激派の最大派閥だったレグルスのトップは、フランツ自身から計画の全貌を聞くと、その場で組織の統合を決断した。

 それはフランツが持つ力への信奉に加えて、一見狂気にも似た強い意思とそれを実現するための計画に、全てを賭けても良いと思わせる魅力を感じたからだ。」


「実現のための計画って…どんな?」

 再びのハンスからの質問に、アレクは改めてハンスの顔を見た。

「気になるか?」

 ハンスが頷くと、アレクは神妙な顔で訊いた。

「ハンス、お前は…アルデバランに入るのか?」


 突然返されたその問いに、ハンスは自分に向けられたアレクの目を見返した。

「…そうすると思う。ルアンさんや父さんのやろうとしたことは間違っていないと思った。それを選択するに至った気持ちもよく分かる。かつてのホルシード王国の人たちの無念や、今後のアトリアに必要な政治体制についてもルアンさんの言った通りだし、俺も故郷や大切な人たちを守りたい。それに俺は…二人の意思を引き継がないといけないと思う。」


 するとアレクは再び川の方に目を向けてから静かに言葉を放った。

「…俺は反対だ。」


 予想外の言葉に、ハンスはすぐさま反論した。

「どうして…!?アレクだって、父さんと一緒に計画を進めてたじゃないか。」

「そうだよ。でもハンスが今アルデバランに入ることには反対だ。」

「なんで!?」

「今のお前は父親や叔父の行動と言葉に惑わされてるだけだ。本当に純粋な自らの意思で組織に入り、武器を持って戦争に加担しようとしているのか?少なくとも俺にはそう思えない。」

「間違いなく自らの意思だよ!!父さんがルアンさんの言葉を聞いたうえでそうしたように、あくまで俺は自分の意思で組織に入るんだ!」

 ハンスははっきりと断言したが、アレクはそれには答えずゆっくりと立ち上がった。


「…もう昼を少し過ぎたな…。帰るか。」

 真剣な気持ちをはぐらかすようなその態度に、ハンスは立ち上がって声を荒げた。

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