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不眠症とバクの夢話

作者: 卯之 はな


わたしはきょうも眠れずにものがたりを書いている。

眠らなきゃという思考が、かえって眠れなくさせるから

パソコンに向かってひたすら文字を打つのだ。


そんな精神状態で、いいはなしなんて生まれないのに…。


ふと、わたしの横にバクがいた。

わたしのものがたりに登場する、

"悪夢を食べてくれるこころ優しいバク"だ。


わたしは親近感をもち、話しかけてみた。


「バクさん。 どうしたの?」


「きみが眠らないから、ぼくも食べられない」


「わたしの夢をたべたいの? 

 それなら、となりで眠るお兄ちゃんの夢でも食べてあげて」


「きみのほうが、いろんなどうぶつたちのお話であふれていて

 美味しそうなんだもの」


「そんないいものじゃないわ」


コーヒーを一口飲んで、

また、パソコンに向かって文を打ち始めた。


はなしをしていたから、展開を忘れちゃったじゃない…


わたしがちょっと前の文を読み返そうとしたときだった。


「コーヒーなんて飲むから、余計眠れないんじゃないの?」


「あなた! わたしのものがたりのバクじゃないわね?

 こんな口出ししないし、悪夢を食べものにして生きている

 こころ優しいバクなのよ。

 親みたいなこと、言わないでちょうだい」


「バクなんていっぱいいるよ。 

 現にきみのものがたりでも、

 極悪非道な"おおかみ"や、赤ずきんに恋する"おおかみ"、

 美術館の"ねずみ"や、疫病神となった"ねずみ"…


 いろいろいるじゃないか」


「そうだけど…」


「悪夢だけをたべるバクと、ちょっとおせっかいなバクがいても

 ふしぎじゃないだろう?」


そういわれると、言い返せなかった。

わたしの手は止まってしまって、

しょうがないからこの理屈くさいバクとの会話に加わった。


「あなたは、そろそろじぶんのものがたりを書いてほしくて、

 ヤキモチをやいているの?」


「まぁ、それもあるんだけど…。

 きみが眠りについてくれたほうが、ぼくとしてはうれしいな」


「なんで?」


「きみって、夜中になると、

 登場するどうぶつが不幸になる話しか書かないんだもの。

 ぼくは、その犠牲者になりたくないんだ」


わたしは、睡魔はおそってこないけれど、頭が回らない状態で

ものがたりを書いてしまう生活をしている。

朝起きて、なぜかバッドエンドの作品ばかりが

徐々に増えていくのだ。

それは投稿されることなく、パソコンの負の遺産として残っていた。


「いい夢を見させてあげるから、そろそろ眠ろうよ」


バクは、ぱたんとしずかにパソコンを閉じた。


「悪夢をたべるバクがいるなら、

 いい夢を見せるバクになってあげるよ。

 だから、ぼくのものがたりはハッピーエンドでおねがいね」


すぅーっとバクがわたしの額のまえで息を深く吸うと、

途端に睡魔に襲われ、眠りの中へ落ちていった。




目が覚めたら、閉じられたパソコンの上で突っ伏して寝ていた。


「夜更かししてちゃ、からだが心配だよ。

 朝ごはんにりんごを切って、冷蔵庫にいれておいたから食べてね。

 じゃあ、いってきます」


いってらっしゃい、の声も待たずに

お兄ちゃんは急いで出勤してしまった。


きのうのことは夢だったのかな


さて、続きを…とおもってパソコンを開いてみると、

あれだけ進んでいたものがたりがごっそりと消えていた。

どのファイルを探しても、見つからない。

せっかく打ったのに、という感情はなぜだか沸かなかった。


どこからが夢で、どこまで現実なのか、わからない。


でも、ひとつだけわたしは覚えていることがある。


久しぶりに夢を見た。

きょうは、家族団らんの 穏やかな日の夢を見たのだ。



あとがきは特にありません。

眠れない夜に勢いで書きました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 世の中の多くの作家さんが抱えている生みの苦しみを連想しました。 作品を創り上げるって大変ですよね。 私がそうなのですが、だからこそこの作品に勇気付けられました。 [気になる点] 朦朧とした…
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