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オレは奴隷を使ってボス改め親父に恩返しすることにした。

作者: 長野ヒビキ

 オレはとある国の裏組織に所属している者だ。


 天涯孤独だったオレはガキの頃にこの組織のボスに拾われた。ボスは裏の世界での生き方をオレに教えてくれた。真っ当な人間にはなれねぇがオレを拾ってくれたボスに恩返しがしたいと思ったオレは必死に頑張った。


 そして、今ではこの組織のボスの次に偉いボスの補佐役になれた。それもこれもオレが管理する奴隷たちのおかげだ。初めて任された奴隷の管理がここまで大きくなるとは思わなかった。


 今日は組織に入ったばかりの新入りにオレがどのように奴隷を使ってきたかを聞かせてやることにした。



 ▽



 最初は子供奴隷を任された。戦争で親を亡くしたり、捨てられたりして行き場がなくなった子供はだいたいが奴隷になる。ボロい牢屋みたいな所に閉じ込められている子供奴隷はみんな傷だらけで目は死んでるみたいだった。


 オレはそんな子供奴隷たち全員にメシをたらふく食べさせた。周りの奴らが何か叫んでいたが関係ねぇ。ボスが言っていた、『ガキの仕事は、遊んで、食って、寝ることだ』と。


 そして、徐々に元気を取り戻してきた子供奴隷たちにオレは仕事をさせた。仕事内容は食べた分に応じて増やしたり減らしたりするようにした。ボスが言っていた、『働かねぇ奴に食う資格はねぇよ』と。


 最近は子供奴隷が自主的に掃除や洗濯みたいな雑務をするようになった。牢屋から出してやったのに外で遊ぶ子供がいないのには驚いた。


 後、何故かあいつらは毎回オレを見つけると『ご主人様!』と呼んでくる。いや、お前たちはボスの奴隷だからオレはご主人様じゃないぞ?オレは管理してるだけだから。



 ▽



 次は老人奴隷だ。色んな経歴の持ち主がいるから何か有益な情報をそいつらから聞き出すために奴隷にするらしい。ただそれしか利用価値がないせいか扱いは子供よりもひどいものだった。


 オレは子供奴隷と同じように老人奴隷も解放した。周りの奴らがまたうるさかったが関係ねぇ。ボスが言っていた、『年上を敬うのは年下として当然だ』と。


 しばらくして子供奴隷と同じように生き生きとし始めた老人奴隷にオレは仕事を与えた。仕事といえるか分からないがこれが最善だろう。ボスが言っていた、『年寄の知恵をバカにする前に一度その知恵を聞いてみろ』と。


 最近は老人奴隷が子供奴隷に色んなことを教えてやってる場面をよく見るようになった。出される料理の質が良くなったのもありがたい。


 それとやっぱりこいつらもオレを見つけると『我らの主』と呼んでくる。年寄から年上扱いされても嬉しくねぇんだよな。そういうことはボスに言え。



 ▽



 その次は男奴隷。組織に逆らった奴らや子供とかと一緒になって捕まった奴らが大半だ。子供や老人に出来ないことや肉体労働をさせられる一般的な奴隷と言っても良いだろう。その分、数も多くなって、扱いはかなり雑になる傾向があった。


 オレは男奴隷もこれまでと同じように解放した。同時にオレはすぐに仕事を与えた。ボスが言っていた、『自分の身を守る術はなりふり構わずすぐに作るべきだ』と。


 オレは男奴隷に身辺警護をやらせた。何故奴隷にやらせているのか、簡単なことだ。組織の連中がオレのことを敵視しているからだ。


 どうやら奴隷がオレの言うこと以外全く聞こうとしないようで、他の連中はそれに不満を持ったらしい。奴隷の管理を任されたオレの許可なしに奴隷を使おうとする神経がおかしいだろうと言いたいが、とにかく逆恨みで殺られるのは勘弁してほしい。


 男奴隷が本来やる仕事を老人の奴隷に効率化させ、子供の奴隷に手伝わせることで余った時間をオレの身辺警護にあたらせる。不満そうな顔で男奴隷が見つめてくるが仕方ない。重要な仕事なのだと言って聞かせる。ボスが言っていた、『仕事の大小で態度を変えるな』と。


 まぁ今では奴隷同士でローテーションを組み、昼夜問わずオレを警護してくれている。中には寝る間も惜しんで鍛練する奴隷までいるようだ。仕事量は増えていて、寝る時間を削る理由が全く分からないが。


 もちろん言うまでもないがあいつらは『この身を捧げる主人』とオレを呼ぶ。その身はボスに捧げてほしい。本当に。



 ▽



「ここからがまた大変で…ってどうした新入り?」


「何でもありません!続きを聞かせて下さい!」


「そうか、確かその次は異種族の奴隷だったかな?」



 ▽



 異種族奴隷は言葉の通り、人間以外の種族の奴隷だ。何故そんなのがいるのか。組織が金を貸した貴族や冒険者共が担保として差し出してくるからだ。


 ペットにしたり、素材を剥いだり、武器や薬品の実験体にされたり、異種族奴隷は用途が広いのが特徴なのだが、その分扱いづらいことも分かっている。人間とは違うので暴れられると手がつけられない。習性や生態も知るはずがないために管理が難しい。


 そんな奴隷をオレは任された。子供と老人と男の奴隷を次々手懐けたことで上層部がオレをうまく利用しようと考えたらしい。ムカつくがボスの組織を大きくするためだとオレは自分に言い聞かせる。



 ▽



 異種族奴隷のいる地下にオレは少数の奴隷を引き連れて向かった。何故一人じゃないのかというと一人で行こうとしたら子供と老人と男の奴隷からすごい剣幕で付いて行かせてほしいと頼まれたからだ。


 圧がすさまじく、同行することを許したが何か良からぬことをこいつらが考えている気がしてならなかった。奴隷が主人を恨んで殺すのは日常茶飯事だからな。オレはこの時は動揺しっぱなしだった。


 何事もなく異種族奴隷の所まで来れた時はホッとした。だがそれもつかの間、オレは地下にいた異種族奴隷からの憎悪の込められた視線によって我にかえった。今までの奴隷の死んだような目とは違った目とそのあわれもない姿にオレは理解した。


 オレは檻に閉じ込められている特に憎悪の強そうな角の生えた女奴隷に鉄格子越しに話しかけることから始めてみた。ボスが言っていた、『初対面の奴と仲良くしたい時にはまず挨拶が一番肝心なのだ』と。


 しばらくして、オレは異種族奴隷を解放した。今までと違って異種族故に意思疏通などが難しかったこともあり、すぐには解放出来なかったからだ。だが、それは無事に解決していた。


 偏見のない子供奴隷との交流、同じ立場故に同情する男奴隷による介抱、これまでの人生経験をフル稼動して異種族との共存を目指す老人奴隷の奮闘によって解決したのだ。


 異種族奴隷はオレと他の奴隷たちに限り、敵意を見せることがなくなった。まだまだ敵意が消えない奴隷もいたが、これからみんなで過ごしていけば徐々になくなるだろうと思った。


 そして、オレの呼び方は『あたしらの旦那様』になっていた。角の生えた女奴隷を筆頭に異種族の女奴隷はみんなそう呼ぶ。


 さらには奴隷の本質なのか、主人に媚びる為に磨かれた誘うような目と過剰なボディタッチのおかげでオレの理性がヤバかった。


 オレは犬や猫に似た異種族をモフモフすることで何とか凌いだ。ボスの奴隷に手は出しません!その代わり、モフモフするのは許して下さい!



 ▽



 異種族奴隷を解放して数週間、オレはボスに呼び出された。異種族へのモフモフがバレたかと思ったがそうではなかった。難しそうな顔でボスはオレに話をした。


 ボスが言うには組織内で奴隷を手懐けているオレに危機感を覚えた上層部がオレを始末しようとしているらしい。奴隷のほとんどがオレの所有物みたいになっている言い方は気に食わないが、自分たちの言うことを聞かない奴隷は邪魔な存在であり、寝首をかかれる怖れがあるのは確かだ。


 ボスはそんな連中を宥める為に、オレと奴隷管理のトップでどちらが奴隷をうまく使えるのかを勝負して決めると提案した。オレが勝てば実力が組織に正当に評価され、始末しようとは考えなくなる。奴隷管理のトップが勝てばオレは下に見られることになるが、それによってボスがオレを庇う大義名分が得られる。そんなオレに対するボスの配慮にオレは泣きそうになった。


 しかし、今はかなり状況がまずいことになっているとボスは話した。どうやらボスの知らぬ間に全ての奴隷の所有権をかけた勝負になっていたらしい。その上、負けた方は追放という名の死刑になるという。ボスの難しい顔の意味がよく分かった。


『すぐに逃げてくれ。組織のことは気にせず、お前は自由に生きろ。こんなことに巻き込んでしまった私に最初からお前の………親代わりは無理だったことが分かったよ』


 ボスは弱々しい声でオレに語りかける。


『私達のような汚い大人に今日まで振り回されて生きてきたお前にはせめてこれからの人生くらい自由に生きてほしい。それが私からの最後の頼みだ』


 オレは泣いた。ボスがそこまで考えてくれていたことに感動してしまった。ボスに対して親のような感情を向けてしまうことが組織にとって良くないとオレは分かっていた。だから、せめてボスに拾って貰った恩返しという体でオレがボスに尽くせば良いと思っていた。


『分かってくれ、息子よ』


 ボスの、親父の言葉で、オレは決意した。これから自由に生きることを。そして、自由になって初めてやりたいこともオレはすで決まっていた。





「こうしてオレは管理トップのハゲと勝負して無事に勝利を収めた訳だ。親父のあの言葉がなかったら負けてたに違いないぜ。ハゲが逆上してたけど奴隷たちが黙らせてくれたよ」


「はぁ…」


「オレはこの組織を親父のための組織に再編してやりたかったから親父に敵対する奴らは全員ぶっ潰すことにした。荒っぽくなっちまったけどな」


「な、なるほど…」


「奴隷たちも全員手伝ってくれたよ。もちろんあのハゲが管理してた女奴隷も含めてな?親父が言ってたんだ、『女の支えがあってこそ男は生きていけるんだ』ってな」


「へ、へぇ…」


「女奴隷たちは『愛しの我が君』なんて呼んできたけど親父に奴隷管理の全権を任されたから好きに呼べって感じだな」


「あ、あの、補佐役?」


「それからはすごかった。ボスや奴隷たちと反乱分子を見つけ出したり、敵対組織を壊滅させたり、奴隷市場を牛耳ったり、毎日が騒がしかったな」


「ほ、補佐役?」


「国内の奴隷を全員管理し始めたあたりから…」


「補佐役!!!」


「ん?どうした?」


「何でそんなに落ち着いていられるんですか!?」


「落ち着くもなにもここで待っていてくれってメイドさんに言われただろう?」


「ここが何処か分かっているんですか!?」


「この国の王様の城にある側室様の部屋だろう?」


「我々はその王様から直々に御呼ばれして来たのに何故側室様のお部屋にいるんですか!!?」


「待合室よりもこっちの方が座り心地の良い椅子があるからってメイドさんが言ってだろう?」


「失礼します」


「噂をすればだな」


「ご主人様、国王陛下の準備が終わりました」


「……メイドさん?まだ違うぞ?」


「やべぇ…………申し訳ございません」


「え?」


「まぁさっさと謁見して帰ろうか」


「やっとだぜ!!!…………ご案内致します」


「え?今、え?」


「行くぞ、新入り」





「以上の罪状によりお主を国外追放とする」


 今オレは新入りと共に大広間で国王の前で跪いていた。国王の長ったらしい話から分かったのは最後の国外追放ということだけだ。こっちは療養中の親父の所に行きたいのを我慢して来ているのにこの仕打ちはあんまりだろう。


「この数年で我が国は大きく成長した。国の豊かさは周辺諸国からも注目され、民の活気は他国の民に憧れを抱かせておる」


「そうですか…」


「全ては我の元に集った優秀な臣下や領主たちの働きが大きいだろう。その者たちと共に更なる国の発展を成す上でお主の存在が一番の障害になると気付かされたのじゃ!」


「なるほど…」


「奴隷がいるような国に犯罪が蔓延るのは必然、我が国で犯罪が蔓延る前にその元凶を取り除かなければならないと我は強く確信したのじゃ!!!」


 やっと終わりが見えてきた。親父の所に早く向かいたい気持ちを抑えるのが大変だったオレは自然と笑みがこぼれてしまう。


「気色の悪い、だがお主を見るのはこれが最後じゃ!お主とお主の所有する奴隷たちは直ちに国外追放とする!!!」


「はい、分かりました」


「ふん、潔いな」


「つきまして、国王陛下。国外追放の為の準備期間を一ヶ月程貰えないでしょうか」


「何故準備にそれほど時間が掛かるのじゃ?」


「国内全ての奴隷となるとかなりの規模となるので」


「ふむ、良かろう。その代わり奴隷は全て連れていくことを徹底して貰うぞ!」


「分かりました」


「……最後に聞いておきたい」


「はい?」


「お主は裏組織のボスと聞いた。日陰者であるお主が王である我の呼び出しに何故素直に応じた?何故公の場に姿を現した?」


「……オレはボスの補佐役です」


「ぬ?」


「何故姿を現したか?簡単なことですよ。ここに用事があったから来ただけです」


「用事?」


「お前たち、契約修了だ!この国で最後になる雇い主に挨拶を済ませてからオレの元に集まれ!」


「お、お主、一体何を言って…」


「新入り、お前にはオレの奴隷たちをついでにこの場で紹介しておいてやるよ」


「はっ、え?」





 我はこの国の王である。数年前から衰退していくこの国を変える為に優秀な人材を取り立て、この国の繁栄に尽力してきた。更なる繁栄の第一歩として目の前にいるこの男を追放することを決め、ついにそれが達成された矢先に奇妙なことが起きた。


 我が取り立てた臣下たちが我の前に跪いていた。何事かと思い、困惑する我に臣下たちは口を開いた。


「国王陛下、ご命令通りに私はご主人様の元に戻ります。宰相としての経験は滅多に出来るものではありません。このような機会を下さりありがとうございます。これを今後はご主人様の為に使っていこうと思います」


「国王陛下、私も今をもちまして将軍としての任を下り、ご主人様の元に馳せ参じる所存です。ここでの経験を糧にし、今後はご主人様の為に尽していきます」


「国王陛下、ワシは本日をもって料理長の立場を辞めさせて頂きます。これからはワシらの主人の為にこの経験を余すことなく使いたいと思います」


「国王陛下、今日でわたくしの側室として役割は終わりましたので愛しの我が君の所に帰らせて頂きます。行き過ぎた寵愛は不利益しか生まないことを今後理解して頂ければ幸いでございます」


「国王陛下、メイド長の仕事は楽しかったですが今日で終わりです。あたしらは側室に相手にされなかった鬱憤晴らしにいる訳じゃないことを認識しておいて下さい」


 目の前に跪く臣下たちが言っていることに我は理解が追いつかなかった。この者たちの主人は我以外にいるというのか?この者たちは我の元を何故去っていくのだ?この者たちを強く取り立ててはならないと周りの従者たちが我に言ったのはこの為か?


「行くぞ、お前たち」


 追放したばかりの男の言葉に促されるように一人、また一人と男の後に続いて歩み始める。気がつけば大広間を出ていった者たちはこの場にいた半数近くにのぼった。


 右往左往する残り半数の者たちを眺めつつ、我はこれからの事を考える。これは一時的なものに過ぎない。我がまた優秀な人材を取り立てさえすれば立て直せるはずだ。あやつらがいなくなった所で我の国が不安定になるはずはない。


(我が再度この国に繁栄をもたらせば良いだけのことよ)


 だが、この時はまだ知らなかった。我の国がどれ程の奴隷に依存していたのかを。


 そして、我の国の崩壊が静かに始まっていたことを我はまだ知らなかった。





 オレは城の外に待たせてある馬車まで歩いていた。後ろにはここで雇われていた奴隷たちが列を成してオレについてくる。聞き耳を立てると、どうやら奴隷たちはここでの苦労話に華を咲かせているようだった。


「はぁ~~将軍は堅苦しかったが、ガネットのメイド姿を見られなくなるのは残念だな。魔法で角を隠さなくても絵になってたと思うぜ?」


「ゴドウィン、あたしがその気になったら速攻でぶっ飛ばしてたことを忘れんじゃないよ!全く、ご主人様の命令とマロ爺の料理がなかったら耐えられなかったよ」


「そう言って貰えると作った甲斐がありましたよ。王族は注文が多くて大変でした。毎日のようにパンとイモを要求してくる側室のセレーナ様には特に苦労させらました」


「わたくしには王族の豪華な料理よりも奴隷の質素な料理の方が合っていると気付かされたのだから仕方ありません!それにあんな大きな部屋では寂しくて寝れないから夜な夜な可愛い弟のユーリとベッドを共にしないといけないわたくしの気持ちをちゃんと考慮して下さい!!!」


「セレーナさん?ボクは貴女の実の弟じゃないですからね!?ボクの部屋に貴女が来るお蔭で国王の嫉妬が凄かったの分かってましたか!?」


「……ガネット、あれは」


「間違いなく確信犯よ」


「微笑ましいですな」



 まさにその通りだった。絶望しかなかった頃の奴隷たちが今やこうして笑いあっていることにオレは感動していた。


 親父の教えてくれたことはみんなを幸せにしてくれる。オレはただ親父の教えてくれた通りに行動しただけなのに、親父は奴隷を救ったのはオレだと言った。オレを気遣ってくれる親父にはもう頭が上がらない。


 ならオレは親父に何をしてやれるのか。オレは考えに考えてひとつの答にたどり着いていた。



「……聞け、お前たち」


「「「「「はい!ご主人様!!!」」」」」



 すぐ後ろの五人を筆頭に、この場にいる全ての奴隷が跪いた。



「親父が国外で療養中だ。そして、先程国外追放を命じられた以上、この国にいる意味はなくなった。直ちにここを出ていってやろう」


「「「「「畏まりました!!!」」」」」


「子供奴隷代表のユーリ、子供奴隷を使って国中の奴隷たちに伝えろ。現在の契約を修了した者から仮拠点に集結。各自準備を整え、次の指示があるまで待機だ」


「畏まりました、ご主人様」


「老人奴隷代表のマロ、老人奴隷を使ってオレたちが所有する国中の倉庫から物資や食糧を仮拠点へ運び出せ。時間はあるから確実性を重視して行え」


「畏まりました、我らが主」


「男奴隷代表のゴドウィン、男奴隷を戦闘職とそれ以外で分けろ。戦闘職の奴隷たちには雇い主と奴隷とのいざこざの仲裁と国内外での護衛を、それ以外の者たちには他の奴隷の手伝いをさせろ」


「畏まりました、わが主人」


「女奴隷代表のセレーナ、女奴隷にオレたちの組織に関する資料整備と怪我をしている者や年齢的に一人では日常生活が困難な者の身の回りの世話を頼んだぞ」


「畏まりました、愛しの我が君」


「異種族奴隷代表のガネット、ここから親父のいる隣国の領地までの最短ルートを確保しろ。それに伴う障害の排除は各自の判断に任せる。好きにしろ」


「畏まりました、旦那様」


「……最後にひとつ言っておく。オレは親父の元に戻り次第、親父のための国を造ろうと思っている」


「「「「「っ!?」」」」」



 親父は不自由なく毎日が楽しく過ごせる生活が夢だとオレに時々語ってくれた。だがそれはそんな生活をまだ親父は過ごせていないと、夢は叶っていないと、告げているようにも思えた。


 だからオレは親父のための国を造る。この国を事実上支配していた奴隷たちの主人であるオレの尊敬してやまない親父をこの国の奴らは認知していない。そんな国で親父の夢が叶うはずがないのだ。


「お前たちには国造りの手伝いをして貰おうと思っているが、それが簡単なことでないことは分かっている。奴隷ながら自身の生きる術を得た今のお前たちなら自由に生きていけるはずだからだ」


「「「「「………………」」」」」


「親父が言っていた、『やりたくないことをやらせても良い結果が出ることはない』と。だからお前たちは…」


「やらせて頂きます、ご主人様」


「ユーリ!強制したつもりはないぞ!」


「ワシらが好きでやることです、主よ」


「マロ!今までの命令とは訳が違うんだ!」


「だからこそですよ、ご主人様」


「どういうことだ、ゴドウィン」


「我が君に救われたあの瞬間から我々奴隷は全員この命を我が君に捧げております」


「あたしらがどうなろうと構いません。旦那様のために死ねるのならあたしら奴隷の本望です」


「セレーナ…ガネット…」


「「「「「ご主人様!!!どうか、我らにご命令を!!!」」」」」



 五人の後ろにいる奴隷も全員同じ想いなのだろう。オレの命令を待っているように見えた。



「お前たち…」



 お前に対する奴隷の忠誠が異常だ。お前はどうやって奴隷を手なづけた。お前は奴隷たちに何をした。周りの連中が聞いてくるのは同じことばかりで腹が立つ。親父の力と言っても誰も信じようとしない。そう考えた所でオレは気付かされた。


 親父はこうなることが分かっていたのだ。親父はオレに組織内で功績を残して欲しくて、自分でも出来る奴隷の管理をオレにやらせたに違いない。親父の教え通りにすれば誰でも可能だったことはオレ自身が証明している。


 オレが思っていた以上に親父は前を歩いていた。オレの道標となっていた。そんな偉大な親父にしてあげられることはひとつしかないのだ。



「……お前たちに命令する」


「「「「「はっ!」」」」」


「親父のため、国造りを手伝え!!そして、親父の素晴らしさを世界に知らしめるぞ!!!」


「「「「「はい!ご主人様!!!」」」」」



 この宣言が後に世界をも手中に収める奴隷国家の誕生に繋がることとなる。


 全ての奴隷を支配下に置き、奴隷国家の頂点に上り詰めたその男はその息子と奴隷たちの前で誰にも聞こえない囁くような声でこう呟いた、『どうしてこうなった…』と。

ボス改め親父は息子を裏の世界から遠ざけたかったので一般常識しか教えておりません。

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