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私は違う……

 維澄さんは確かに私のことを愛していると言った。この事を想えば私の心は歓喜に震える。


 私の顔は嬉しさのあまりのぼせる様に火照っているのに、それでいて不安で内臓がぐるりと撫でられたような不快感を感じている


 ”感情”と”思考”が頭の中で混乱し私の身体はそんなちぐはぐな”心”に呼応して”狂喜”と”不安”の症状がないまぜになってしまっていた。



 維澄さんは明らかにネガティブな反応をしている。その引き金は私の”愛している”といってしまった事のはずだ。


 でもなんで?それが全く理解できない。


 普通、維澄さんだって喜ぶところじゃないの?


 自分が愛すると言った私に愛してると言われてなぜそんなに不安な顔になってしまうの?


 今の自分に何かが出来るという気が全くしない。


 私はまたさっきと同じように、自分の身体が”および腰”になっていることに気付いた。


 私は維澄さんの愛していると言う言葉の重さと今、目の前にある維澄さんの反応を受け取めることに怖れをなしてしまっているのだ。


 でもこのまま身体も、そして気持ちだって後ろに下がってしまってはいけないことだけは分る。


 だから私はガムシャラに自分の気持ちを”ただ前に押し出す”ためだけに身体の足をなんとか前に一歩踏み出し……”ずい”とばかりに維澄さんに近づいた。


 挑むように激昂していた維澄さんは私が近づいてきたことが意外だったのか、わずかに上半身が後ろに傾き”引き気味”になった。


 あきらかに私が近づいたことに動揺した。


 私はこの機を逃さなかった。



「維澄さん?……私のことを想っていてくれてたことはホントに嬉しいんだよ?ホントはもっともっと飛び上るほどに喜びたいのに……なんでさっきからそんな怒ってばかりいるの?私なんか変なこと言った?」


 私はなるべく穏やかに諭すようにここまでのセリフを絞り出した。


 とにかく維澄さんの気持ちを落ち着かせないと話にならい。


「だ、だからやっぱり私の愛してると、檸檬の愛しているの意味はきっと違うから」


「どうして?どうしてそんなことが言えるの?」


「私は女子高生が言ってるような、ただ付き合うためだけの告白とは違うんだよ。私の気持ちはもっと……もっと……」


 維澄さんはそこまで行ってボロボロの大粒の涙を流し始めてしまった。


 でも私はこの維澄さんのセリフで維澄さんが何を”勘違いしているのか”が分かった。私が安易に”つき合えばいい”と言ったことに不安を感じているのだ。


 でもそんな維澄さんを見て、私は私で別の感情が芽生えてしまった。


「だから!!まだそんなこと言ってるの?勝手に私の気持ちを決めつけないでよ!!何度も同じこと言わせないで!さっきもいったよね?私はね……維澄さんを”愛してる”っていったんだよ?」


 私は自分がその言葉の重さを”身をもって”体験していたので、この言葉にも充分気持ちを乗せて実感を込めて言うことができた。


「嘘だ……」


「嘘じゃない!!」


「だって”また”私ばっかりが」


「また?またって何よ?もしかして上條さんのこと言ってる?あんな薄情な人と私を同じにしないでよ!!」


 そう私が言うと目を丸くして”おいおい”とでもいいたそうに上條社長は私の方を見た。


 ”薄情”は言い過ぎかもしれないけど……でも上條社長と私の想いはまるで違うのだけは自信を持って言える。


 私は維澄さんに会うずっと前から、そうはじめて一枚の写真を見たときからいままでずっと、そしてこれからだって絶対維澄以外を愛することなんてありえない。


 だから絶対に間違えない。


「檸檬は……上條さんに似てるから」


 維澄さんは泣きながら呻くように言った。


「だから何なのよ!!性格が似ていることと私が維澄さんを想う気持ちは別でしょ?なんでそんな歪んだ判断ばかりしてるよの!いいかげんにしてよ!!」


「だって、檸檬は私の過去どれだけ苦しんだか知らない……」


「そんなことは私の気持ちとは関係ない!!維澄さんの気持ちの問題でしょ?そんなことは自分で解決しろ!!」


「……ひ、ひどい。私はただ檸檬が…檸檬が」


「だまれ!」


「れ、檸檬、そんな酷い……酷い……」


 維澄さんは自分が傷つくことばかり考えて私の方を見てくれていないことが腹立たしかった。


 私がどんなに言葉を弄しても維澄さんは私の言うことに心を開いてくれない。


 私はそれが悲しくて悲しくて……


「檸檬もきっと私の元を去っていく」


「去らない!!」


「そんなの今だけ」


「違う!」


「檸檬はまだ分からないだけ」


「だまれ!……だまれ!だまれ!」


「だまらないよ……」


 私は何を言っても維澄さんに届かないことを悟った。


 だからもう強引に彼女の口を封じるしかなかった。


 私は二度とそんな”たわごと”を維澄さんに言わせないために……


 維澄さんがもう二度と言葉を発せないように……





 私は……



 維澄さん唇を私の唇で塞いだ。



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