大空に生きる
「撃墜数? 別に、そんな事気にしてなんかないよ。ただ空を飛ぶのが好きなだけ」
(西郷広義)
雲を掻き分けるようにして、輸送機は雲と雲の隙間を行く。
日本海上空、高度約4,000mを進む輸送機は、大陸、沿海州の最前線への急ぎの物資を満載していた。
この輸送機を操縦するのは、15年前の第二次朝鮮戦争にも従軍した、ベテランの機長、橋爪正人大尉と、まだ若い副機長、藤田誠中尉。
分け入っても、分け入っても、白い雲。退屈なのか、藤田は愚痴をこぼしていた。
「だいいち、体がほとんど金属で出来た敵に、通常小銃弾なんて通用するんですか? 積み荷の約半分ぶんくらいのスペース、犠牲にしてる気分ですよ」
藤田がそう言うのも無理はない。
1年前、2045年、ユーラシア大陸各地に突如として現れた、謎の機械生命体群・BW(Biological Weapons)。 フォルムこそ地球上の生物を模したものだが、その装甲は、通常小銃弾程度なら、いとも容易く弾き返し、大型のBWなら、時折戦車砲すら弾き返すこともあるぐらいだ。そしてその火力は、最も小型な、体長1mほどの豆型ですら、20mm弾レベルの破壊力を持っている。
場数は踏んで来ている橋爪は、愚痴る藤田を、落ち着いた態度で諭した。
「仕方ない。装甲機動歩兵ならいざ知らず、一般歩兵はそれしか扱えないんだ。それに、通常小銃弾でも、数を撃ち込みゃ、小型程度なら殺れる」
「まぁ、そりゃそうですけど…」
藤田は未だ少し腑に落ちない様子であった。橋爪はそれを察したのか、藤田を含め、機内にいる部下達を勇気付けるような言葉を発した。
「心配するな。歩兵用強化服も、新型の高火力銃も、弾も、人型飛行戦闘服も、何もかも全部急ピッチで生産されてるんだ。直にBWも退いてくさ」
暗い顔をしていた部下達は、その一言で顔が少し晴れ、橋爪に微笑みの返答をした。
しかし、この小さな希望の火を掻き消すかのように、突如、警報装置が不快な音のアラートを発した。機内に戦慄が走る。
担当の搭乗員は訓練通りに、スクリーンに映し出された情報を読み上げた。
「警報、敵機襲来、中型5、小型30、方位0-4-5、距離10,000、速力400ノット」
更に戦慄走る。近い上に速い。ミサイル警報装置を無理矢理改造したモノとはいえ、もっと遠くで反応するハズなのだが、その時は原因は不明だった。
当然、実戦経験が皆無に等しい若い者達は狼狽える。
しかし橋爪は落ち着いていた。かつて、第二次朝鮮戦争の際、本当に撃墜されたことがある、齢四十の古兵は、ただ真っ直ぐ、冷静に操縦桿を握っていた。
「狼狽えるな、オレ達にゃ、護衛がいる」
「しかしたったの5機では……」
不安がる藤田に対し、橋爪はフッと微笑した。
「お前も聞いたことはあるだろう。 『独立第24航空歩兵戦隊』」
その部隊名を聞いた途端、藤田は抑え気味に驚愕の声を発した。
「それって…、もしかして、あの第24戦隊ですか⁉︎」
「そうだ、あの第24戦隊だ」
藤田は視線を斜め上に向け、窓越しの空を見上げた。何やら、人のようなモノが、直線ぎみの姿勢で飛んでいるのが見えた。
その巨大な鋼鉄の人を纏った人間は、V字型の編隊を組んで、輸送機の上方を飛んでいた。
「あれが『人型飛行戦闘服』…! 綺麗だ…」
藤田はその鋼鉄のイカロスの姿に、少しの間見惚れた。
そして、V字編隊の前鋒3機が、すいーっと、敵編隊の方向へ流れて行くのが見えた。
「幾ら何でも無茶だ! 3機で敵うはずがない!」
今度ばかりは藤田は声を抑えずにそう言った。すると、いつの間にかオープンチャンネルになっていた無線に通信が入った。
『ライダー4からコスモへ、ご心配なさらず、あの3人は精鋭です。あの程度、ものの5分程で撃退します。その間は我々2機が貴方がたを護衛致します』
素朴で美しい女性の声がインカムに流れてきた。橋爪はそれに返答した。
「コスモからライダー4へ、了解、物資と我々の護衛、改めて感謝する」
橋爪が交信を終えた後、護衛についていた2機の内1機が、輸送機の右斜め前、丁度搭乗員全員に姿が見える位置に出で来て、するりと機体ごと背後を向いた。その戦闘服を装着し、操縦していたのは、交信相手の女性パイロットだった。分厚い特殊対Gスーツを着ていたので、あまり判らなかったが、藤田の目には素晴らしい美人に写った。
そして、十分に接近した迎撃組の報告担当から、交戦開始の一報が発せられた。
『高度5000、ホバリング状態で眼下の敵編隊に対し、銃撃による攻撃開始。撃墜確実、小型、心臓ナシを5機。 これより敵編隊に突撃を敢行する』
機内に歓声が上がり、更なる期待に胸が高まった。
暫くの間、機内をエンジン音だけが占拠した。
そして、通信が入るや否や、皆固唾を飲んで、耳を澄ました。
『突撃成功。 ライダー2、西郷一飛曹の白刃突撃による編隊先頭の中型、心臓アリ3機の撃墜を確認。残る中型、心臓アリ1機は、ライダー1、竹崎大尉が射撃により撃墜。 残存敵機の退却を確認。 護衛任務に戻ります』
更に大きな歓声が機内を包む。普段、冷静な橋爪も、珍しくガッツポーズをした。
これがあの第24戦隊の実力か‼︎ 藤田はひどく感動し、初めてプロ野球を観戦した少年のような、とても明るい笑顔を見せた。
戦闘の後、直ぐに、別部隊との護衛の交代があった。
橋爪が改めて深い感謝の辞を述べると、また窓から見えるような位置で、編隊で大きくVロールをして、第24戦隊の勇士5機は、日本の方へと飛んで行った。
一連の件の後、何よりも藤田を感心させたのは、先陣切って敵編隊に白刃突撃し、ものの一瞬で、あの強力なBWを3機も撃墜せしめた、西郷一飛曹という男だった。
何という強さ! まさに武士! まさに魔王!
たとえこの戦で死するとも、たとえ生き残るとも、彼の名は語り継ぐ価値がある!
日本国防空軍独立第24航空歩兵戦隊 第二中隊所属・西郷広義一飛曹。
後に、〈魔王〉と呼ばれる男である。
the opening……
まず、身勝手な修正、申し訳御座いませんでした。
この小説、昔pixivの方に投稿していた小説のリメイクでもあります。
そして、今回地味な登場だった西郷君は、僕のキャラの中では一番好きな子です。
僕が大好きなものをブッ込んだ、クソみたいなクソ小説です。
まぁ、どうせそんな注目されませんので、好き勝手やり放題書かせていただきますが…
それでは皆様、末長くお付き合い願います