嘔吐
夏がくるといつも思い出してしまう。いや、忘れるはずもないのだ。酒を煽りながら部屋でひとり物思いに耽る。
中学校の頃、虐められていた少年がいた。実によくある話である。別段彼に何かしらの特徴がある訳でもなく〝偶然〟選んだのだ。元々は彼にも友達が居たのだが、全員瞬く間に彼の元を離れていった。
あの頃いじめっ子達は何を思っていたのだろうか。確かに私にもそういう時期があった。意味もなく蟻を踏む。蝉の羽を毟る。子供故の残虐性。それを誰が否定できようか。こういうことをいうと虐めの擁護だ、何だと騒ぎ立てる輩がいる。虐めが不平等を生むとでも勘違いをしているのだろう。不平等が虐めを生むのに...。
虐めの末彼は首を吊った。夏休み明けの教室で、誰よりも先に学校に来て照明部分に縄を引っ掛けて...。彼は死の間際いったい何を考えていたのだろうか。
かなり酷いことをされていたようである。全裸画像を学校中に貼られ、常に生傷が耐えなかった。罵詈雑言以外話しかけられずその他にも挙げればキリがない。自ら死を選ぶのも充分理解出来てしまう。そもそも自殺すら自分で選ばなかったんではなかったんじゃないかという話もある。最後の最後まで脅されて、手のひらで踊らせれて、勇気ゆえの死ではなく誘導ゆえの死だったのかもしれなかったのだ。
そういえば僕は、何をしていたっけ。彼が虐められていたあの頃に。傍観者を気取っていたのだっけ?
酒を黙々と呑みながら考え続ける。クーラーを入れてるのだがまったく涼しくならない。蒸し暑さが体全体に纏わりつき、シャツが引っ付き不快感がこみ上げる。
もしかしたら、僕がいじめっ子だったのかもしれない。
あの頃、開けてはいけないパンドラの箱。それに僕は手をかけているのではないか...?
1人では、首を吊れずに善人ぶって手伝ってやった元友人のAだったのかもしれない。
そうだ、そうだ。僕はこの程度の悪いやつだ。これ以上は...
夏っぽく、僕がいじめられっ子だったってオチもいいかもしれない。
みんなも、期待してるんだろ?こんな安っぽい怖いオチを。
いや、そんな甘いものではまったくなかった。
胃の奥からふつふつと、思い出してはいけない物が溢れ出してきた。胃液と混ざり合い、それが私を苛ます。
トイレに駆け込んで、過去のすべてを吐き出す。
ふいに吐瀉物と自分が重なる。終わりきっていたのだ。
あの頃から僕の夏は...
僕は夏が大嫌いだ。
揺れるあの少年を思い出すから。
部誌に滑り込み
楽しんで読んでくれよな