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雪は儚く壊れやすい故に  作者: 縞馬檸檬
3/4

任務開始

 

 反射的に走り出しものの、流石に車に追いつく事は不可能で無駄だと感じていても足を動かし続けて車が走り去った道を追うしかなかった。


 自分の無力さと無能さに嫌気が差し込み無意識に舌打ちしてしまう。



 幸いな事に雪にはプレゼントと称して発信機が内蔵されたキーホルダーを渡していた為見失ったとしても居場所なら特定できる…だが、私が辿り着いた時に雪が無事だという保証はどこにもない、相手側の目的も定かでは無い為に焦りが募って行く。



 私は一度足を止めて呼吸を整えながら携帯端末を鞄から取り出し、一度雪の現在地を確認するために端末機を起動させ発信機が辿っている軌道を確認した。


明らかに天野組の家とは関係のない逆方向へと向かっていた、あの運転手の男と大柄の男は内通者で間違いないのは確実だ。


 どう動くか考えていると後方から急ブレーキをかけてタイヤが擦れる音とエンジンの音が聞こえ、振り向いた瞬間男の怒号が飛んで来た。


「危ねぇだろガキ!!曲がり角で立ち止まってんじゃねぇよ!!死にてぇのか!?」


 私は丁度道路の曲がり角で死角となるところに立っていたので迷惑にも程があり、私は運転手に謝罪しようとして頭を下げたが途中で男が跨っているバイクを見て動きを止めた。


「おい!!聞こえてんのーー「すいません!コレ借ります!!」


 男が話している途中だったが私はバイクから男を無理矢理引きずり降ろしヘルメットを奪い去るとすぐさま被りバイクに跨った。


「ってぇ!何しやがる!!?」


 尻餅をついた男が怒りを露わにしているが時間がなくそれに構っている余裕はない。


「本当にごめん!!!!」


 走り出しなが謝罪の言葉を残しすぐさま私は車を追った。











「…斎藤さん、此処…どこですか?何が目的でこんな所に……」


 私を乗せた車は街からだいぶ離れひと気の無いところまで来ており目の前には寂れた倉庫が建っている。

 周囲は陽も落ちて暗くなり不気味な雰囲気が漂い私は恐怖と絶望に支配されそうなっていた。



 私はいつものように薫と別れた後、送迎をいつもしてくれている斎藤さんと車が待っている所まで向かい合流し車に乗り込んだ。

 けれど今日は何故か普段と違い家とは真逆の方向へと走り出しそこから斎藤さんは一言も話さず車を走らせ続けた。


 私は何処に向かっているのかも斎藤さんの目的が何なのかも分からないまま連れ去られ、助けを呼ぼうにも助手席にいる室井さんに荷物を奪われその後は斎藤さんと同様に黙り込んでいて脱出しようと試みるも車のドアはロックされていて何も出来ずにいた。


 斎藤さんと室井さんは私が小さい頃に天野家に引き取られた時からいる古参の人達で顔に似合わず子供好きな2人には良く世話を焼いてもらい頼りにもしていて信用していた人達だった。


「ねぇ…何か、何か理由がーー「雪ちゃん…日本は今とても危険な立場にあるんだ。」


「…え?」


「雪ちゃんはね…そんな日本を救うかも知れない大事な大事な鍵なんだ。」


「え?かぎ…え、斎藤さん?」


 斎藤さんは運転席に座ったまま顔だけをこちらみ向けて私と斎藤さんの目が合う。


「…ッ」


 その眼は見たこともない位にとても濁った眼をしていて私は背筋が凍り付くのを感じた。


「だから…雪ちゃんには日本の為に頑張って貰わないと駄目なんだ…日本の為にその命をかけて使命を全うしなきゃ駄目なんだよ。」


「い、いや…誰かたすけーー









 辺りはもう既に闇に包まれている。


 発信機が移動をやめた位置まで近付き、途中でバイクを乗り捨て音を立てないよう発信機の近くまできたがどうやら寂れた倉庫の中に居るようだ。


 途中車が不審に止まった様子は無かったので雪は車に乗ったままでココに辿り着いた筈……私は焦る気持ちを落ち着かせながら倉庫に音を殺して近付き周囲を回り、倉庫内を確認できる所がないか探っている。


 倉庫の壁に窓を見つけるが磨りガラスで中は確認できない為付近の壁に耳を付けて中の音を拾い中の様子を伺う。

 雪の声は聞こえないが代わりに複数人の男の声が聞こえ、私は耳を澄ました。


「おい…まだあの男は来ないのか?」


「そう焦るな、此方が早く来すぎただけだ。」


「予定よりまだ30分以上時間がある。」


「娘の様子はどうだ?」


「相変わらず震えてるよ。」


 話の内容から察するにまだ雪は無事だと思えるがまだ確証はない…それに私の予想が正しければ雪をあの写真の男に渡すのが此奴等の目的らしく受け渡しまでまだ時間はありそうーー「なぁ、あの娘少し位好きにして良いよな?」



「ッオラァア!!!」


「「「「「!?!!?」」」」」


 ”俺”は男の会話の内容を聞いた途端に身体が反射的に動いた所為で気がつくと窓をぶち破り中に侵入していた。


「誰だてめぇ!!」


「とりあえず捕まえろ!」


 男達が突然の侵入者の登場に慌てている中、運転手をしていた男が手を挙げて周囲の注目を集め落ち着かせ指示を飛ばし始めた。


「落ち着け…室井は二階の様子を見に行け異常があればすぐに知らせろ。」


 男の言葉を聞いて俺は二階に視線を向けると倉庫内に階段がありその先に事務所のような部屋の存在を確認した。

 周囲を見渡すが雪の姿は確認出来ない事から雪はあの部屋に監禁されているようだ。


「外からの連絡は来ていない…予想だとこの女1人だけだ、そう焦るな。」


「ならこの女は一体…」


「何でもいい、処分するぞ。」


 男がそう言うと周囲の男達は嫌な笑みを顔に浮かべジリジリと距離を詰めてくる。

 室井と言われた男は二階に向かったので一階にいる男は5人に減った、もし二階に監視役が居たとしたら予想だと全員で7…いや外の監視も入れて最低でも9人程度だと予想する。


 男の1人が此方に向けて走り出して来た。


 男は両手を広げ抱き着く様にして向かって来たがその男の右腕を身体を逸らすと同時に左手で掴み送り出して離すと同時に男の足を払い態勢を崩す。

 そこにすかさず掌底を男の顎に打ち込み意識を削り落とす。


「…あと4人」


「なっ!?」


「気を抜くな、本気で行け。」


 その一連の流れを見た男達は動揺したが直ぐに運転手の男が周囲に指示を出し直ぐに男達は気を取り戻し各々手に得物を持って囲むように散開した。


 案外立ち直るのが早いかったが関係ない…迅速に全員を倒せば良い。


「オラァアアア!!!!!!」


 鉄パイプを手にした男が振りかぶりながら近づいて来たのを冷静に躱し、躱された事で男が姿勢を崩した隙を突き男の腕を掴み鳩尾に蹴りを打ち込む。

 蹴りを喰らった男から鉄パイプを奪い取り身体を回転させ男の背中めがけて振りかぶると鈍い音が倉庫内に響き渡り、男は呻き声を発してその場に倒れ込み暫くは動けそうにない状態となった。


「3人。」


「ウァアアーー!!!」

「ッ!」


 左側方にいた男が大声を出しながら突っ込んでくるがそれと同時に反対側からは駆け出す音が聞こえ挟撃を仕掛けてくる。


 反対側の男は気付かれていないと思っている所を虚をつく形で削る。


 タイミングを合わせバックステップで後ろに下がると同時に肘で反対側の男の顎を打ち抜き、直ぐに態勢を立て直し声を張り上げている男が持っている得物めがけ鉄パイプで下から打ち上げる。


 手を打たれた男は得物を手放し悶絶し、その隙をつく形で顔を蹴り上げ戦線離脱させる。


 その時俺の背後を狙った運転手の攻撃を頭を逸らして躱し、肩の上を通る形となったその腕を掴み、捻りながら一本背負いを極める。


「これでラストッ!」


 腕を捻った状態で技を掛けた所為で男の腕からは枯れ木をへし折った様な音を響かせながら地面に叩きつけられ直ぐに足の裏で男の顎を踏み抜き意識を削り落とした。


「一階の征圧完了…っと。」


 男の腕を離し二階の部屋を見上げると、窓から下の様子を見ていた室井と呼ばれていた男と目が合い、その男は急いでその場を離れ姿が見えなくなった。


 俺は部屋へと繋がる階段へと向かうと直ぐに階段を駆け上がりドアを蹴り破った。


「う、動くんじゃねぇぞ!!!どうなるか分かるだろ!?」


 部屋の中入ると室井と呼ばれていた男が声を張り上げ雪の首筋にナイフを突き付けている状態だった。


「…分かった…何もしないから、落ち着いて話をしましょう…ね?」


 雪のが一先ず無傷なのを確認した”私は”安堵し呼吸を落ち着かせて冷静さを取り戻した。


「雪…私が助けるからジッとして…」


「だ、黙れ!その場にうつ伏せで倒れろ!両腕は頭の後ろだ!!!!早くしろ!!」


 雪は涙を流し突き付けられたナイフと私の顔を交互に見つめ顔に恐怖の表情を浮かべている。


「大丈夫…大丈夫だから。」


 雪に声を掛けながら私はゆっくりと姿勢を低くしていき同時に両腕を頭の後ろに持って行く。

 そして目の前の男に気付かれぬように注意しながら右腕の袖の中に仕込んであるナイフをそっと取り出し機会を伺う…。


 この距離なら男がナイフで雪の首を掻っ切るよりも速く確実に狙った所に放てる自信がある。


「お前等何してんの?」

「!?ッなーーー


 突如背後から声が聞こえ反射的に振り向くが、その姿を捉えるよりも先に意識と視界が一瞬にして吹き飛び暗転し、気がつくと窓から放り出され一階のコンクリートに向かっている途中だった。


 咄嗟に空中で身体を捻り受け身を取る姿勢を作るが二階からコンクリートに叩きつけられて無事でいるのは不可能で強い衝撃が全身を襲う。


「…?……ッ!、な、にが…」


 何が起きたのか理解する暇もなく硬い地面に叩きつけられた俺は這いつくばる姿勢で全身を襲う痛みに動けずにいた。



 身体を襲う頭に耐えながら何が起きたのか考えるも理解できたのはほんの少しの情報のみでそれですら意識が朦朧とする中で定かではなく答えが見つからず思考がぐるぐる回り続け。


 振り向いた瞬間頭部を横から打撃されたのは感覚で理解しているつもりだがその感覚が得物等ではなく素手によるものだと訴えている…けれど不意をつかれたにしても人1人を吹き飛ばしあまつさえ窓から身体が放り出される程の威力のある打撃なんて理解出来ない。


「お!?スゲーな!まだ生きてんのか!」


 階段を下る足音と男の声が聞こえその方向へ視線を向けその男を睨み付ける。


「普通の人間の癖に一撃貰ってまだ意識保ってるのは見事だけどよぉ…お前もう諦めろ、どう足掻いても無理だから。」


「ッ……く、そが…」


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