須磨アルプス
24. 須磨アルプス
勤務先は大阪市内であったが、社会に出てから結婚するまでの数年間は、ずっと潮見台に住み続けていた。家から歩いてすぐ近い例の鉄拐山の中腹までは、手軽な散歩道の山になって行った。裏庭みたいな積りで、休みの日に散策がてら時々ぶらりと出掛けたものである。
無論もう父親の同行無しに、大概は中腹の休憩所まで、である。そんな中で、何回かは中腹より上の頂上まで足を延ばすこともよくあった。
時たま最初からその積りで家を出発し、山の頂上を目指すだけでなく、更にそこから尾根続きの須磨アルプス連峰を縦走した。西端まで達して、そこに取り付いてあるロープウェイで下山して帰宅した事も何度かある。全行程は四~五時間掛かった。「同じ山」へ出かけても、もう「女の子」を思い出す事は無かった。思い出さない事に充分「慣れてしまった」。
そんな中で、社会人になって数年後の夏の日曜日の夕方で、日が陰る時刻になって、気軽な散歩の積りで家を出た。歩き慣れた何時もの山の中腹の休憩所まで一人で登った。そこから直ぐ下山する予定だったが、夏は夕方でも日が長いから、途中で気が変わり、それより上まで足を延ばす事にした。
昔は休憩所の先に細い丸木橋が架かっていたが、何時の間にかコンクリート製になり、歩き易い安全な道へ改修されている。それを渡り、岩山を過ぎて山頂を目指して登っている内に、八合目辺りで本来の登山道からそれてしまった。間違えて古い道に入ったらしい。
木々の繁りは深いが、精々二百五十米程度の山で山頂は一つの筈だし、眺める海の方向は何時も南と判っているから、例え道を間違えても頂上へ辿り着くのは造作も無い。たまに違う道を辿るのも、一興である。
そんな気分も手伝って、両側に見上げるように高い木々の間の細い道をどしどし進むと奥まで入り過ぎた。気が付くと周りをぐるりと背の高い林に囲まれた畳み二十帖ほどの明るい平地へ出ていた。近辺へはそれまでに何度も来ていた筈だが、そこは初めての場所である。




