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楽しみに出来る

 老人を紹介するのに、今の時点について書くよりも、むしろ直近の過去10年間がどうだったか述べた方が良いのではないかと思う。筆者の直近10年は70→80歳で、丁度70代を通した時代となる。決して壮年とは言えず、どこへ出しても立派に「年寄り真っ盛り」だから、この時期をどう通過したかを総括するのは、「老年とは何んぞや」が分って有意義だと思う。


 七十代の十年を一言で表現すれば、「青春時代みたいだった」気がする。若い人は意外に感じるかもしれないが、決して強がりで言うのではない:片想いも含めて(=実を言うと、こればっかりだったが)適度に恋もあり、配偶者以外に筆者へ反抗する人は少なかったし、仕事も充実しながら同時にストレスは少なかった。

 この感覚は恐らく筆者一人ではないと思う。高齢者は若い人たちに比べて幸福感が高いという調査結果もあるらしいから、整合性がある。


 実年齢の七十代を四十代というのは流石に欲張り過ぎだが、自分の中ではずっと五十代位の感じを持って生きていた。毎日筆者が話したり接触するのは、(社内の人を中心に)100%筆者より若い。彼らと話をし慣れる為に、自分も同じ年齢だと錯覚するせいもありそうだ。


 年齢を基準にした実際の青春時代には、冬にはスキーをしたり夏は山登りをしたり、ドキドキしながら恋をして初めてのセックスを体験したり、仕事の面でも確かにエキサイテイングで楽しみも多かった。けれども、(説明するまでも無いが)同時に人生や自分の将来への不安や心を悩ます問題も結構沢山あった。思い当たる人は多いと思うが、精神的にも不安定さがあった。


 七十代の第二の青春時代にはお肌のツヤは無くなるし、スキーや山登りこそ出来ないが、不安やストレスが少なく、長年生きて来た自信に裏打ちされた自己肯定感と安定感があった。

 もっとも、(もう女に持てない)というアキラメの境地じゃないかと天邪鬼な事を言う人も居るが、これこそ偉大な「悟り」だ。仕事上ではこれからは(若い)お前たちの時代だからと責任を押し付けられるから、確かにこっちは気楽だった。


 総じて若い時代に比べて、これは充分お釣りが来る「心の幸せ」だと思う。この意味で、若い人は歳を取る事を「楽しみに出来る」のではないか。




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