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◎第八十八話:「八十」の話 

◎第八十八話:「八十」の話 


 筆者は八十になった。八十と言うと、世間の通念ではもう老人以上と見られているようだ。例えば最近新聞でこんな本の広告を見た:「六十代と七十代 心と体の整え方」・副題:良く生きる為に読む高年世代の生活学。1350円。


 八十代は対象外で、本のタイトルを見ただけで仲間外れにされたみたいで、筆者などは酷く疎外感を感じる。この著者が書く本は今後読まない事にした。

 書評によると内容は:健康診断はやばい・クスリと書いてリスクと読むべし・好色の勧め・もっとコレスレロールを・金はドンドン使うべし・運動し過ぎると早死にする・さよならだけが人生だーーー、である。


 なるほどなるほどーーー、しかしだ、本が不吉な情報を提供するーーーという事も大いにあり得る。意地悪く言えば、本の通り実行したら七十九の年齢制限まではなんとか持つが、八十になった途端にガタっと死ぬのではないかと心配する。★因みに、筆者が今まで書いたエッセイ類も大概不吉な傾向があるから、一旦読むと人生が狂う事もある。害はもっと大きいから用心したほうがよい。


 そうは言っても先の本で著者に同情する部分もある。例えば八十代の健康法と精神衛生について論文を書きたいとすれば、自らが証人たらざるを得ないから、著者は九十代でないといけない事になる。それまでに本人が絶滅しまえば、あら残念、永久に書けない訳だ。


 仮にやっとこさ九十に達してーーー、八十代を如何に過ごすかの本を作り世に問うても、一体八十の人がそれを買うと思うかい? 書いた本人の方も仮に本が売れてどっさり印税が入ったとして、使い切るだけの寿命が未だあるのかーーー。となれば論理的な帰結を得る:そんな論文を書く人は世に存在しない。


 八十とは存在と不存在の境目をつなぐ、そんな凄い歳なのである。


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