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切羽詰まった

 行政関係ではないが、エピソードを一つ紹介しよう:

 ウチのお客さんで(株)IHIインフラ建設という大手企業がある。橋を建設したり大規模な工事を行う技術力のある会社で、国内だけでなく海外工事もやる。数年前の事だが、高知県下の仁淀川にかかる既存のつり橋のメンテナンス工事をこの会社が引き受けた。ワイヤーロープの交換などボルト作業が多数ある。


←ボルトが多数(つり橋の写真)


 ボルト締結となるとウチのおハコだから、そんな関係で技術打ち合わせにウチとIHIインフラとの間で数人の人が行ったり来たりした。ある時お客さん側の技術者が4人来社して、共同実験を行った。4人の中に三十少し前らしい女性( Lさん)が一人混じっていたのが、珍しいと思った。

 ステンレスのボルトは通常のボルトとは振る舞いが異なる:強く締めても、あまりよく締まらない特性があって苦労するのだ。その為の実験だった。


 関心があったから、筆者も(自分の職務ではなかったが)時々倉庫内にある実験室に顔を見せていた。

その日実験が予定より長引き、もう定時を過ぎて午後七時頃になっていた。筆者は退社しようとして最後に実験室を覗いたところ、実験は終了していたが、お客さんが未だ居てウチの人間と打ち合わせを継続していた。しかし何か異様な雰囲気を感じた。


 ウチの人間が筆者へ耳打ちして分かったのだが、吊り橋のメンテナンスにどうやら特殊な機械部品が足りず、これを今から急いで製作する必要があるらしかった。手違いがあって、当の部品を作り忘れていたらしい。


 明日の高知での工事現場では、そこは町から遠い山奥なのだが、下請けの作業員十数名の手配を既に済ませてあった。当の部品1ケが足りない為に工事を一時中断するとなると、今の時刻から一人一人の作業員らへ作業中止連絡も含めて、大事おおごととなっていたのだ。解決の為には、遅くとも明朝十時には部品を現地に届けなければならない。


 もう午後七時過ぎである。ひとごとながら、筆者も何とか協力できないものかと思案したが、時間が時間だけにどうにもならない。ウチの作業場にも中古の機械があって無理をすれば作れなくはないが、先ず鉄鋼素材の手配が必要だったし、次に機械を動かす人員が直ぐには居ない。どうしようーーー、と全員が切羽詰まった。


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