範囲は広い
話をS子に戻す:独立をしたいというS子に対して、先に書いた通り分野が違うから、アドバイスが出来るには限りがある。一口に建築と言っても、範囲は広い。造船の事を英語でNaval Architecture(=海の建築)というように、造船も建築の一種である。特に客船の建造となるとホテルの建設と似た処がある。船の中に快適な居住空間やダンスホールなどの娯楽施設も演出しなくてはならないし、船全体のデザインも格好良く見せないといけない。
陸上に限っても、ビルの建築と個人宅の建築はまるで異なるし、寺院の建築となれば、もう芸術の域である。
規模の大小を問わず一種のプロジェクトだ。造船所で客船を建造するのは勿論の事、個人住宅の建築であっても、施主の好みや家族構成や予算などを考えながら、他方で頼む下請けの技量も考慮すれば、小規模ながらも一つの総合的なプロジェクトに違いない。設計から施工まで個人が一人で何もかもは出来ない。大きなプロジェクトは、大手の建設会社でさえ同業他社と手を組んでJV(ジョイント・ベンチャー=共同プロジェクト)でやっている。
個人で最も独立・起業し難い分野が建築ではないかと推測するが、間違っているだろうか? これは駅前でケーキ屋を開店するのとは大分違う。個人住宅向けの設計事務所であっても、経営の死命を制する注文取り(=販売)となると(何処に買い手が居るのか分からず)、どこか建築会社の下請けとならざるを得ないのではないか? となると、たんとお礼を弾まないといけないから、接待費がだいぶ要る。
今の時代になっても、特に建築業界には女と言うハンデもありそうだ。若いS子を応援をしたい気持ちはあるが、この壁を打ち破るのは容易ではあるまい。残念ながら、筆者はもろ手を挙げて賛成とは言い難い。




