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伝説的記録保持者

 外資系会社で富士山の頂上みたいな高給取りだったエンジニアから、暮らしぶりは地獄の底への劇的な落下。ジェットコースターじゃあるまいし、スリルがあるってもんじゃなかった。おまけにセールスマン7名の中で最下位の売上成績と来たから、スリルに加えて大いに本人を狼狽させた。


 入社以来十ヶ月間パーフェクトに坊主(=売上ゼロの意味)で、本人も顔を赤らめる札付きの悪さ。くよくよするのは老人だけではない、いつも下を向いて歩きプライドもメンツもあったものではなく、屈辱の苦汁を最後の一滴まで飲まされた。

 当時「男は辛いよ」という映画が流行っていたが、世間の全員が筆者を見ている気がしてーーー、何やら心穏やかではなかった。


 余談になるが:不成績で首になる寸前に、屈辱の最後の一滴を飲み干すと、これは魔法の薬だった。古い格言で言う通り、死が差し迫っている時ほど精神が研ぎ澄まされる事はない。自分は地の底にいるのだから、これより下へ落下する事はないーーーという居直り現象が起きたのだ。バッサリ切り捨てられてみるとプライドなんて何ほどの値打ちもなく、自尊心が無駄に強かっただけ。こうなると一皮むけて強靭な精神力の持ち主になれるのは、受けあいだ。


 「うぬーーー、殺してでも売ってやる!」となったから、劇薬の効き目はあらたか。(本人にとっても意外だったが)頭を切り替えて新しい原理を確立すると、驚くなかれ半年後にそれまで最下位だった筆者の売上は社内でNo.1となったのである。多彩な手法を駆使した訳ではなかったが、一体誰が信じようか!筆者にも信じられなかった(詳細は「亀が空を飛ぶ方法」にあります)。


 功績はそれだけに留まらず更に半年後に、二位の同僚の二倍近くを売り続ける事になったから、変身ぶりはダントツで伝説的記録保持者となった。この自慢を本に書きたい位だが、読まされる世間の迷惑を考えて、自分の利己的態度を今もいましめている。謙虚な男だ。


 朝鮮人参もマカも服用しなかったのに、セックスが回復した。



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