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人生が暗転

 ところがどっこい、四十になった途端人生が暗転した:突然事務所が閉鎖となり、職を失ったからである。人生は驚きに満ちている、なんてのんびりしたものではなかった。確固たる地位と収入を失うと、謎と魅力に満ちた人物がたちまちただのオッサンとなり、どんな女も寄って来なくなった。こんな青天の霹靂の事態に遭遇しなければ、筆者の生涯に「起業」と言う文字は天から降って来なかった筈だーーー。けれども直ぐに起業した訳ではなかった。


 生憎の不景気と南国市という田舎町で、適職が見つからなかった。見つからないと書けばたった六文字だが、家族四人が職を失うとはどういう辛さか、骨身にしみた。止む無く、全員一致で生まれ故郷の大都会神戸へ戻らざるを得なかった。


 大都会はあちこち職だらけの筈と思っていたが、一年半探したが職は見つからず、希望が粉砕され貯金が底をついた時、流石に危機感が強まった。こうなると自分の「適職」という拘りを捨てざるを得ない。捨ててようやく見つけたのがゴミみたいな仕事。未経験な工具(油圧レンチ・ボルトを締結するもの)を売るセールスマンであった。


 吹けば飛ぶような小さな会社で安月給だったが、それで手を打たざるをえなかった。ただ、資格は不要で息さえしておれば採用されたから、その点は親切で便利だ。社内で一番歳の食った四十過ぎの販売員となったが、ただでさえ少ない給料が時々遅配になったから、便利さと引き換えに踏んだり蹴ったりである。


 男は環境の変化に敏感だ、セックスレスになった証拠に三人目は生まれなかった。

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