ウチへ来るな!
「君はウチへ来ない方が良い」
「ーーーー?」
「ウチへ来ても、社長にはなれない。成れないのを保証するよ」
「ーーーー??」
「君の成績なら他のもっと大きな一流の会社へ、入るべきだよ。ウチの会社で潰してしまうには忍びないーーー」
「潰すーーー???」
「仮に無理に入社しても、長続きせず、失望して直ぐに辞めるだろうね。だからーーー、来たいと言われても、ウチから断る」 これ程明快な返事はない。
「ーーー????」
人事課長は、S社の内部事情を隠さず語った:
外聞を憚る部分もあった。親族ばかりのいわゆる同族会社で、社長を初めとして株主は身内の出身者で固められ、配当が世間水準より遥かに高率なのは、自分たちへ利益の分配を増やす為に外ならず、(株主ではない)一般社員の事は二の次。
「君が社長になるには、同族の娘と結婚するのが手っ取り早い。が、その顔では保証しかねる。社長にはなれないねーーー」と請け合った。
規模の小さな会社というのは、外見の建物が如何に立派でも、S社に限らずそうした意識の低い処が多いーーー。経営者に会社が社会の公器という認識が乏しいという意味の事を、時間を掛けて丁寧に説明してくれた。要するに、「世の中、お前が考えるほど正義に満ちている訳はないし、仮に能力があるとしても、出世が保証出来るほど甘いものでもない。
大なり小なり会社とはそういう処があり、むしろ醜く失意に満ちたもの。だから、「同じ事なら」大手の方が、未だ正義が通り易い」と、諄々と諭したのである。理が通っていた。
「本当を言えば、君のような熱意に燃えた優秀な学生にこそ来て欲しい。けれども、残念ながらウチの社が、君を採れるだけの誇りある器ではない気がするーーー。君はウチへ来ない方がよい」と話した。
「はあ」と、私は気の抜けた炭酸水みたいになった。




